TORENDIA
灯ともし頃
岸田國士
TORENDIA
灯ともし頃
本文約2,100字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
晩春の薄暮、荒廃した庭園の池のほとりで一郎と三郎の兄弟が過ごしている。不穏な家庭環境に追い詰められた一郎は、両親への反発から弟を連れてどこかへ隠れようとし、やがて池に身を投げることを画策する。弟との対立や母の出現を経て、家庭内における親子の緊張関係と、孤独や絶望に苛まれる少年の内面を描く戯曲。
速度
🎧 灯ともし頃 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら
💰 この本を応援する(投げ銭)
1 / 3
荒廃した庭園の一隅。
藻屑に覆はれた池のほとり。
雑草の生ひ茂つた中に、枯れ朽ちた梅の老樹。
晩春――薄暮。
少年が一人、ぽつねんと蹲つてゐる。手に持つた竹竿で、時々、狂ほしく草叢を薙ぐ。顔は泣いてゐるが、涙は出てゐない。
帽子が傍らに脱ぎ棄てゝある。
少女の声が池の彼方に聞える。
――もう遅いから、あたし、帰るわ。
別の声が之に応へる。
――えゝ、ぢや、また明日ね。
ついで、
――さよなら。
――さよなら。
寂寞。
少年は、手で草を引き抜き、その茎を噛む。
かすかに、飴屋の囃し。
突然、太い男の声。
――一郎。
少年は、飛び立つやうに驚く。
――一郎。
少年は、おづおづ、梅の樹に縋る。
――一郎。
癇走つた女の声 ――あなたは、一郎を連れて、何処へでも行つて下さい。 男の声 ――おれにはおれの仕事がある。(間)暗い。ランプは誰がつけるんだ。
少年は、しくしく泣き出す。
女の声 ――三郎。(間)三郎。(間)お前は、また、なにしてるんだい、そんな暗い処で。早く兄さんを呼んでおいで。 男の声 ――電気はまだ来ないのか。 女の声 ――静かにして下さい。赤ん坊が眠てるんですよ。 男の声 ――黙つてろと云ふのか、よし、黙つてゝやる。一生、黙つてゝやる。
長い沈黙
「兄さん、兄さん」と呼ぶ声。弟らしき少年が現はれる。
岸田國士の他の作品
TORENDIA
緑の星
岸田國士
緑の星
岸田國士
TORENDIA
放浪者
岸田國士
放浪者
岸田國士
TORENDIA
記憶のいたづら
岸田國士
記憶のいたづら
岸田國士
TORENDIA
計算は計算
岸田國士
計算は計算
岸田國士
TORENDIA
悪態の心理
岸田國士
悪態の心理
岸田國士
TORENDIA
光は影を
岸田國士
光は影を
岸田國士
TORENDIA
秋の雲
岸田國士
秋の雲
岸田國士
TORENDIA
菜の花は赤い
岸田國士
菜の花は赤い
岸田國士
TORENDIA
それができたら
岸田國士
それができたら
岸田國士
TORENDIA
山形屋の青春
岸田國士
山形屋の青春
岸田國士
TORENDIA
髪の毛と花びら
岸田國士
髪の毛と花びら
岸田國士
TORENDIA
荒天吉日
岸田國士
荒天吉日
岸田國士