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TORENDIA

和紙の教へ

本文約2,600字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

自然の恩寵と伝統の叡智を背景に生み出される和紙の美と、その特質について綴る。楮や雁皮などの素材を活かした手漉きの和紙は、柔剛を兼ね備えた清浄な存在として古来より尊ばれてきた。土地ごとの風土や歴史が息づくこの紙は、単なる道具を超え、日本人の心や清らかさを象徴する至宝である。本作は、和紙に宿る自然への帰依と祖先への敬念を説き、自国の文化を慈しみ守り継ぐことの意義を力強く提唱している。

柳宗悦

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🎧 和紙の教へ / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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一

「紙漉重宝記」の絵語りの終りに、忘れ難い一図が差し入れてある。一枚の紙が風にひら/\と遙かに飛んで行くのを、人が追ひかけて拾はうとする図である。貴い紙を一枚でもおろそかにしてはすまないと云ふ意を込めたのである。絵にとり立てゝ美しさはないが、この一図を忘れずに加へたその心には美しさが濃い。物体ないと云ふ気持が溢れてゐるからである。どの本であつたか、紙に就いて神明を畏るべしと云ふ意味の句が添へてあつた。清浄な紙の性質に就いて、貴い訓しである。

石州の黄ばんだ半紙を胸に描くとしよう。甞てはありふれた質素な品であつたが、私がわけても好むものゝ一種である。工房を訪ねると、時としてはいとも貧しい箱舟や簀で、農事の片手間に、もの静かに漉いてゐる。薄暗い室や簡素な道具類や、うたゝ遠い昔の姿そのまゝを想はしめる。細々とした手仕事に過ぎなくはあるが、出来上つた紙を見ると、誠にりんとした所があつて、張りが強く、思はず指で撥いて、音を楽むのを禁ずることが出来ない。それのみではなく、やゝ厚みのものになると、肌の美しさが一入際立つてくる。静かな起伏や、ゆるやかな渦紋さへその上に漂ふではないか。思はず又手を触れる快よさを抑へることが出来ない。色をと見れば、誰だとてその天与の黄ばんだ調に、見とれない者はないであらう。楮の甘皮が人に代つて染めてくれたのである。私達は識らず識らずに、耳に手に眼にこの和紙を讃えてゐるのである。

優れた紙になると、それ自身で既に美しさに溢れる。どこか犯し難い気品が見える。愚かに用ゐてはすまない。たとへ使ひ古した半紙や巻紙の一切でも、何か棄てるに忍びないではないか。紙縒にでもすれば又甦つて来るからである。昔の人はそれで布を織つた。細かい乱れ絣が入つた着物などを見ると、手習の跡かと思はれ、一入情愛をそゝる。

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