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TORENDIA

思い出す職人

本文約4,500字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

柳宗悦が昭和初期の奥羽地方への旅で出会った、無名の鍛冶職人たちの仕事と思いを綴る随筆。秋田で優れた山刀や五徳を制作しながら若くしてこの世を去った伊勢谷運吉と、酒田で船箪笥の金具を作る老職人白崎孫八の工房を訪ねた経験を描く。著者は、世間に知られずして消えゆく職人の確かな技術と仕事の美しさに深い敬意を表し、彼らの手による道具の価値を後世に伝えるとともに、民藝の真理を擁護する姿勢を鮮明にしている。

柳宗悦

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🎧 思い出す職人 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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亡き一職人のために

森数樹兄と一緒であった。昭和九年九月一日、奥羽地方民藝調査の折、秋田を訪うた。だがこの古い町に期待したほどの品物はなかった。黄八丈はあるが、本場のにはどうしても劣る。角館でも作るが、もう生産が薄い。漆器は能代に名を奪われている。(もっともこの黄味を帯びた春慶は、色や塗の関係から上品であっても弱々しく、形も冷たく、同じ品ならまだしも飛騨高山産の方が力がある)。秋田の町では岩七厘が目に止るが、これも町の産物ではなく北秋田郡阿仁の村で出来る。樺細工も町で見かけるがこれは角館が本場である。紫根染はあるが、これは花輪から来たのであろう。秋田が秋田で産む品を求めても、ほとんど得るものがない。大きな城下町であるし、北方の主要な都であったから、昔は相当に色々な品が作られたに違いない。だが伝統は早く消え去ったと見えて、眼に映る品はほとんどなかった。(あるいは未だ気附かないものがあるかも知れぬ。もしそうなら次の訪問の時是非廻り逢いたい)。

町々を縫って廻ったが、かつぐ袋はまだ軽かった。ついに町はずれ近くなった時、ふと小さな鍛冶屋が目に止った。狭い店に低い棚を設け、品物がほんの少しまばらに置いてあった。往来の埃が店を一層貧乏くさくさせた。だが急に私の眼を射たものがある。念のため駆ける車を戻して店に寄った。何たる幸なことか、私は間違わなかった。それは美しい山刀である。背の角が隅入りで、厚みも多く形もよく、家の記なのかこれに瓢箪模様が一個入れてあった。柄もいい。だがそれだけではなかった。今まで見たどの五徳よりも美しい形のものがあった。その傍には最も可憐な吉原五徳が置かれてあった。土地では「鉄きょう」という。品物を見ると、どれもこれも一つの共通した特色があって、他の品とは明かに違う。作った者の形に対する優れた本能が感じられた。一つの金鎚にもそれが見出された。

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