TRENDIA CLASSIC

二笑亭綺譚

柳宗悦

1 / 4

式場君には色々の著書がある。其の中で一番式場君の本分がよく現れているのは、此の一書であると思う。他の著作に比して寧ろ短い一篇ではあるが、始めから終りまで材料がよくこなされていて、定めし著者にとっても会心の一書ではないかと思う。嘗て出た画家ゴオホ伝も大著であるが、それは今迄世に出た多くの評論の集大成であった。併し此の著書は凡て式場君自身のもので、謂わば創作的価値に於て更に優れたものと思える。第一題材が斬新であるのみならず、全く打手附けのものであった。式場君は精神病学が専攻であり、一方いつも美の世界に心を惹かれている。実に此の二つのものが結び合ったのが此の題材である。だから著者は其の叙述に於て、充分専門家的であり、兼ねて又文学的である。恐らく式場君にとって之れ以上好箇の材料はなく、又二笑亭にとっても此の著者以上の解説者は得られないであろう。之で式場君の仕事が益々活かされ、又二笑亭も始めて其の存在を得たとも云える。そのせいか文章も内容も書きぶりも、活々して淀みがない。式場君の書く多くのものの中で、近頃一番心をそそられたものの一つである。かかる印象を受けるのは恐らく私一人ではあるまい。誰でも引きずられて、一気に読み終るであろう。而も内容から云って、決して一時の読み物ではなく、凡ての精神病学者や又は美術家達から、折ある毎に引照される本となろう。兎も角異常な題材への優れた記録で、珍しい書物と云わねばならない。まして其の実物が毀された今日、此の著作のみが其の価値を代弁する。嘗て雑誌に出たものがここに増補され、一冊の単行本にまとめられたことは祝福に堪えない。

柳宗悦の他の作品