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TORENDIA

蛆の効用

本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

腐肉を浄化する「清潔係」としての蛆の役割と、伝染病を媒介する一方で自然の平衡を保つ可能性を持つ蠅の存在を考察する。特定の生物や事象を一面的な害悪と断じ、拙速に駆除・排除しようとする人間側の視点を問い直す。自然界の複雑な相互関係と平衡状態に目を向け、対象の効用や存在意義を多角的な視点から論じる随筆である。

寺田寅彦

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🎧 蛆の効用 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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虫の中でも人間に評判のよくないものの随一は蛆である。「蛆虫めら」というのは最高度の軽侮を意味するエピセットである。これはかれらが腐肉や糞堆をその定住の楽土としているからであろう。形態的には蜂の子やまた蚕とも、それほどひどくちがって特別に先験的に憎むべく、いやしむべき素質を具備しているわけではないのである。それどころか、かれらが人間から軽侮される生活そのものが、実は人間にとって意外な祝福をもたらす所以になるのである。

鳥や鼠や猫の死骸が、道ばたや縁の下にころがっていると、またたく間に蛆が繁殖して腐肉の最後の一片まできれいにしゃぶりつくして白骨と羽毛のみを残す。このような「市井の清潔係」としての蛆の功労は古くから知られていた。

戦場で負傷したきずに手当てをする余裕がなくて打っちゃらかしておくと、化膿してそれに蛆が繁殖する。その蛆がきれいに膿をなめつくしてきずが癒える。そういう場合のあることは昔からも知られていたであろうが、それが欧州大戦以後、特に外科医の方で注意され問題にされ研究されて、今日では一つの新療法として、特殊な外科的結核症や真珠工病などというものの治療に使う人が出てきた。こうなると今度は、それに使うための蛆を飼育繁殖させる必要が起こってくるので、その方法が研究されることになる。現に、昨一九三四年の『ナツーアウィッセンシャフテン』第三十一号に、その飼育法に関する記事が掲載されていたくらいである。

蛆がきたないのではなくて、人間や自然の作ったきたないものを浄化するために蛆がその全力をつくすのである。尊重はしても軽侮すべきなんらの理由もない道理である。

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