動員挿話(二幕)
本文約15,100字 ・ 読了時間 約31分
あらすじ(AIが作成しました)
明治三十七年夏の東京を舞台に、従軍を控えた宇治少佐と、その馬丁である友吉の姿を描く。少佐は友吉に戦地への同行を命じ、友吉は妻の数代に相談する。戦争という状況下で、出発を目前にした主人と従卒、そして残される者たちの心理的葛藤と動揺を、日常的な対話や情景を通じて綴る物語である。
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人物
宇治少佐
従卒太田
馬丁友吉
少佐夫人鈴子
友吉妻数代
女中よし
時 明治三十七年の夏
所 東京
[#改ページ]
第一幕
宇治少佐の居間――夕刻
従卒太田(騎兵一等卒)が軍用鞄の整理をしてゐる。
鈴子夫人が現れる。
夫人 さ、此の毛糸のチヨツキをどこかへ入れといて頂戴。――あとから送つてもいゝけれど、どさくさ紛れに失くなされでもするとつまらないから……。それに、もう、あつちは、九月になると寒いつて云ふぢやないの。――何もかも、あんたのお世話になるのね。ほんとに、よろしく頼むわ。大変だらうけれど……。病気だけは気をつけてあげて頂戴ね。すぐおなかをこはすのよ。 従卒 さうすると、入れるものは、これだけでありますか。 夫人 さうね……。もう大概それくらゐのもんね。お護りはあすこへ入れたと……。 従卒 ウイスキイは二本でよろしうありますか。 夫人 沢山でせう。御自身でも一つ、図嚢へ入れてらつしやるのよ。 従卒 太田も一つ持つて行きます。それから馬丁もゐますから……。 夫人 そんなに……? 寒い晩にお酒なんかあがるのはいけないんださうだけれどね。よく凍死するんですつて、それで……。 従卒 は? 夫人 凍えて死ぬのよ。お酒に酔つてなんかゐると……。 従卒 どうしてでありますか。 夫人 どうしてだか知らないけれど……。婦人会の講話で、さう云ふお話をうかゞつたことがあるわ。あんたは飲まないのね。 従卒 はあ駄目であります。 夫人 駄目の方がいゝわ。
(此の時、宇治少佐、浴衣姿にて現る)