TRENDIA CLASSIC

動員挿話(二幕)

岸田國士

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人物

宇治少佐

従卒太田

馬丁友吉

少佐夫人鈴子

友吉妻数代

女中よし

時  明治三十七年の夏

所  東京

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第一幕

宇治少佐の居間――夕刻

従卒太田(騎兵一等卒)が軍用鞄の整理をしてゐる。

鈴子夫人が現れる。

夫人  さ、此の毛糸のチヨツキをどこかへ入れといて頂戴。――あとから送つてもいゝけれど、どさくさ紛れに失くなされでもするとつまらないから……。それに、もう、あつちは、九月になると寒いつて云ふぢやないの。――何もかも、あんたのお世話になるのね。ほんとに、よろしく頼むわ。大変だらうけれど……。病気だけは気をつけてあげて頂戴ね。すぐおなかをこはすのよ。 従卒  さうすると、入れるものは、これだけでありますか。 夫人  さうね……。もう大概それくらゐのもんね。お護りはあすこへ入れたと……。 従卒  ウイスキイは二本でよろしうありますか。 夫人  沢山でせう。御自身でも一つ、図嚢へ入れてらつしやるのよ。 従卒  太田も一つ持つて行きます。それから馬丁もゐますから……。 夫人  そんなに……? 寒い晩にお酒なんかあがるのはいけないんださうだけれどね。よく凍死するんですつて、それで……。 従卒  は? 夫人  凍えて死ぬのよ。お酒に酔つてなんかゐると……。 従卒  どうしてでありますか。 夫人  どうしてだか知らないけれど……。婦人会の講話で、さう云ふお話をうかゞつたことがあるわ。あんたは飲まないのね。 従卒  はあ駄目であります。 夫人  駄目の方がいゝわ。

(此の時、宇治少佐、浴衣姿にて現る)

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