TORENDIA
交遊記
牧野信一
TORENDIA
交遊記
本文約2,700字 ・ 読了時間 約6分
あらすじ(AIが作成しました)
大正九年頃から始まる回想録。学生時代からの友人である鈴木十郎や柏村次郎との交流、時事新報勤務時代の佐佐木茂索や中戸川吉二との出会い、また葛西善蔵や小林秀雄ら文壇の知人たちとの交遊と酒にまつわる出来事を綴る。作家としての苦悩や田舎と東京を往復する生活、親しい友人たちの訃報に接した際の記憶を辿りながら、自身の辿ってきた人との繋がりを振り返る。
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そのころも手帳に日記をつけてゐた。学生時分からの友達は鈴木十郎と柏村次郎だつた。大正九年のころ、時事新報の雑誌部に勤めてゐた。鈴木の義兄にあたる巌谷氏の恩顧だつた。鈴木とは子供の時からの友達で、僕が二年先に早稲田の文科に入り、受験生だつた彼を同じところへすゝめたのである。今でも彼は何うかすると、あの時お前が文科などへすゝめなければ俺は重役くらゐになつてゐるんだぞなどゝ云ふことがある。彼は、しかし、未だ僕が同人雑誌にも小説を書かぬ時分から、どんな片々でもを読まされて、耽念に批評した。自分は殆んど書かなかつたが、批評は非常に厳密で、大概の僕の作品は落第だつた。僕は破いては書きして、稀に辛うじて及第すると興奮した。柏村次郎とは有楽座で天勝のサロメを観てゐたのがはじめであつた。それから教室でも後ろの方にならんだが、僕は横浜の知合のアメリカ人のところでヴアヰオリンに熱中して学校を一年しくじつた。鈴木が未だ受験生のころで、僕は一層学校を止めようと思つたが、柏村と鈴木に忠告されて学校の近所に下宿した。同級には下村千秋や浅原六朗がゐて後に彼等と共に「十三人」といふ同人雑誌に加つた。柏村は長谷川浩三や吉田甲子太郎と「基調」、鈴木は浜野英二や故近衛直麿と「象徴」などを始めた。
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