TRENDIA CLASSIC

野草雑記・野鳥雑記

柳田國男

1 / 115

野鳥雑記

暫らく少年と共に郊外の家に住むことになって、改めて天然を見なおすような心持が出て来た。少なくとも今までの観察の、大抵は通りすがりのものだったことを感ずる。旅は読書と同じく他人の経験を聴き、出来るだけ多くの想像を以て、その空隙を補綴しなければならぬ。自分の如き代々の村人の末でも、ほんの僅かな間の学問生活によって、もうこれほどまでに概念のしもべになろうとしている。これは忘れたというよりも最初から談ろうとしなかったためであろう。今において始めて野の鳥の徒らに饒舌でなかったことを考えざるを得ない。

畠に耕す人々の、朝にはまだ蕾と見て通った雑草が、夕方には咲き切って蝶の来ているのを見出すように、時は幾かえりも同じ処を、眺めている者にのみ神秘を説くのであった。静かに聴いていると我々の雀の声は、毎日のように成長し変化して行く。ある日はけたたましい啼声を立てて、彼等の大事件を報じ合おうとしている。これが人間でいえば物語であって、集めまたは編纂して歴史となるべきものであろうが、あれを構成して行くめいめいの悩みと歓びとの交渉配合が、こんなに人生の片寄った一小部分であったことを、今までは頓と心付かずにいた。

柳田國男の他の作品