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TORENDIA

黒石の人たち

本文約920字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

津軽に疎開中の筆者が、黒石町を訪れて交流した人々を綴る。縞ズボンをはき筆者の字に失望した中村氏、ボタンを繕う福士氏、雪道で軍靴を滑らせる詩人の北山氏、座談会に奔走する対馬氏、そして筆者を叱咤する村長の神氏ら、個性豊かな面々との交友が描かれる。土地の人々の素朴な姿や、座談会での滑稽な出来事を通じ、当時の黒石における交流の様子を温かな視点で記録する一編。

太宰治

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🎧 黒石の人たち / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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津輕に疎開中、黒石町にいちど遊びに行つた事があります。黒石民報の中村さんのところへ遊びに行つたのです。中村さんは、縞ズボンをはいてゐました。いつも、はにかんで、赤面し、微笑してゐました。頭のいいひとは、たいてい、こんな表情をしてゐるものです。中村さんは、私に字を書かせました。さうして私の書いてゐるのを傍で見てゐながら、「こなひだ、××さんにも書いてもらつたが、あのひとは、うまかつた」と言ひかけ、ご自身ひとりで、ひどく狼狽してゐました。私の字には、いたく失望なさつたらしいのですが、無理もないんです。

黒石民報社の主筆の福士さんは、黒石の詩人や作家たちを、私に紹介して下さいました。私のワイシヤツの袖口のボタンなどはづれてゐると、福士さんはそれを氣にして、無言で直してくれるのでした。私も安心して默つて福士さんに直してもらひ、まるで私は福士さんにとつて中風のおぢいさんのやうでした。

北山さんといふ詩人は、雪の夜路を私と二人で歩いて、北山さんはその夜、特に新しい軍靴をはいて私に歡迎の心意氣のほどを見せてくれたのですが、新しい軍靴は雪に滑つて、北山さんは、何度も何度もころびました。北山さんは、一升瓶を持參してゐたので、私は、北山さんのころぶ度に、ひやりとしました。

また對馬さんといふ詩人は、私を黒石の隣村に連れて行つて、座談會をひらきましたが、村の人は坊主のお説教と間違つたのか、ぢいさん、ばあさんが、たくさん集つたのには、閉口しました。そのうちに、村の若者のひとりが、私を無視して、ご自分で演説をはじめ、甚だ座が白け、對馬さんは、その若者に演説をやめさせようとして大苦心の態でした。

そこを引き上げて、私たち二人は、その村のお醫者さんのところへ行き、お酒を飮んでも、ちつとも意氣が上りませんでした。實に、みじめな座談會でした。

また、黒石の近くの別の村の村長さんで神さんといふおぢいさんがあつて、この人は、「津島のオンチヤは、まだまだ、ものになつてをらん、勉強しろ、こら、ばか者めが」と言つて、やたらと私を叱るのです。叱られて、うれしい思ひがしました。

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