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TORENDIA

あの顔

本文約11,000字 ・ 読了時間 約23分

あらすじ(AIが作成しました)

刑事弁護士の尾形博士のもとへ、かつての知人である川島浪子が訪ねてくる。浪子は、自身の従弟である秋田弘が赤ん坊を殺害した疑いで逮捕されたと話し、弁護を懇願する。浪子の語る経緯に疑念を抱いた博士は、執拗に真実を問い詰める。やがて彼女は、妾の面影を残す赤ん坊への憎悪から自ら手をかけたという衝撃的な事実を告白し、弘がそれを目撃しながらも罪を被った背景を語る。博士は秘密の厳守を誓い、弘を救うための策を講じようとする。

大倉※[#「火+華」、第3水準1-87-62]子

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刑事弁護士の尾形博士は法廷から戻ると、久しぶりにゆっくりとした気分になって晩酌の膳にむかった。庭の新緑はいつか青葉になって、月は中空にかかっていた。

うっすらと化粧をした夫人が静かに入って来て、葡萄酒の瓶をとりあげ、

「ずいぶん、お疲れになったでしょう?」と上眼使いに夫を見上げながら、ワイン・グラスになみなみと酒を注いだ。

「うむ。だが、――長い間の責任をすましたので、肩の荷を下したように楽々した」

「そうでしょう? 今日の弁論、とても素晴らしかったんですってね。私、傍聴したかった。霜山弁護士さんが先刻おいでになって、褒めていらしたわ、あんな熱のこもった弁論を聴くのは全く珍らしい事だ、あれじゃたとえ被告が死刑の判決を下されたって、満足して、尾形君に感謝を捧げながら冥土へ行くだろうって、仰しゃっていらしたわ」

「霜山君はお世辞がいいからなアハ……。しかし、少しでも被告の罪が軽くなってくれればねえ、僕はそればっかり祈っている」

「あなたに救われた被告は今日までに随分おおぜいあるんでしょうねえ。刑事弁護士なんて云うと恐い人のように世間では思うらしいけれど、ほんとは人を助ける仕事で、仏様のようなものなんですからね」

「その代り金にならないよ。だから、いつでもピイピイさ」と笑った。

「殺人犯だの、強盗だのなんかにはあんまりお金持ちはいないんですものねえ、でも、あなたは金銭にかえがたい喜びがあるから、と、いつも仰しゃいますが、減刑になったなんて聞くと私まで胸がすうっとしますわ。その人のために弁護なさるあなたの身になったらどんなに愉快だろうと思いますのよ」と云っているところに、玄関のベルが臆病らしくチリッと鳴った、まるで爪か、指先でもちょっと触れたように。

「おやッ」と夫人は口の中でつぶやいた。

ふたりは何という事なしに眼を見合せたのだった。すると、こんどはややしっかりしたベルの音がした。

夫人は小首を傾げて、

「普通のお客様のようじゃないわね、きっと何かまた」と、云いながら席を起って行ったが、間もなく引返して来ると、まるでおびえたような顔をして、

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