(上)
ツイ二三日前のこと、私達は赤い丸卓子を囲んで昂奮に汗ばんだ顔を並べ、心霊学者深井博士の話を、熱心に聞いていた。もう秋だというのに恐ろしく蒸し暑い晩だ。
「金塊はたしかにあった。この眼で見てきたのだから間違いはない、価格はまず五億万円ほどだ」
と云って、口を真一文字にきゅッと結び、皆を見廻した。隣席にいた人は、その時、思わず低い呻きのような歎声をもらした。
× × ×
五億万円ばかりの金塊が、ある洞窟の奥に隠されている、と、一人の優れた霊媒が云い出したのは、よほど前のことである。ナヒモフ号やリュウリック号を聯想して、私達はそれを一笑に付して顧みもしなかったのであるが、博士は何か信ずるところがあったと見えて、その後、研究に研究を重ねた結果、登山客の杜絶えたこの秋の初めに自ら探検に出かけて、遂に実証を見届けて来たという、その驚くべき報告を、今宵集まった人達に話そうとするのである。
「場所はどこですか」「その金塊には全く所有者がないのですか」「発見者は全部貰えるのですか、それとも何割という規定でもあるのでしょうか」などと、慾深い連中からの質問が続出する。
雨が降り出した、大つぶの雨が軒をうつ。博士は顎鬚をしごきながら、徐ろに語をついでいう。
「場所は日本アルプスの×××の麓の城趾である。無論所有者はない。皆さんも知っているであろうが、――甲州の金山から武田信玄が掘り出した莫大な金の行方が、今に分らない、何れどこかに隠してあるのだろうが、――世間で甲州の金山だなんて掘っているのは、ありゃ武田信玄の掘りッかす、つまり屑なんだ。屑だッて大したものなんだが――、当時、大望を懐いていた彼が密に準備をしておいた軍用金、――即ちその金塊は、人に知れないようにあるところに納っておき、時機を待っているうちに、死んでしまったのだ。