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TORENDIA

最初の印象

本文約1,500字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

池袋の邸宅で初めて江戸川乱歩と対面した筆者は、世間の噂とは異なる社交的で朗らかな人柄に驚く。本作は、怪奇小説で知られる文学者の多面的な素顔と、生活に困窮した際に受けた深い恩義を振り返り、その誠実な人柄を綴る随筆である。虚実入り混じる噂や逸話に翻弄されながらも、折に触れて接する中で確信を深めていった著者にとっての、かけがえのない敬愛する人物としての姿を描き出している。

大倉※[#「火+華」、第3水準1-87-62]子

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🎧 最初の印象 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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江戸川先生に始めてお目にかかったのはもう二十年近くも前のことです。

池袋のお宅のお座敷で、先生をお待ちする間、私の心は好奇心と不安が交錯していました。

と、いうのは、その頃。

「江戸川乱歩先生のお書斎にはドクロがつるしてある。お化けの人形がぶら下っている、その無気味な雰囲気の中で、先生は深夜人の寝鎮るのを待って、蝋燭の灯で仕事をされる」等々の記事が雑誌に掲載されたり、人の噂にのぼっていたからです。

とにかく先生は普通の方ではない、だからああいう小説がお書けになるのだと私は思っていました。が、それにまた異常な魅力を感じ、いつも驚異な眼で御作を拝見していたのです。エキセントリックな方だ、とは思っていました。作品全体に漂う、幻想、怪奇、猟奇から考えても、そういう御生活をしていられるのは当然なこと、これは事実だろうと思っていました。

それから大変気難しい方だとも聞いていました。私は怖れをなして一度尻込みしてお目にかかりたいという希望を捨てようかと思ったのです。

「そんなに心配することはありません。とても親切ないい方ですよ。僕は原稿を持って行っては、教えて頂いているんですが――」

これはたった一人の先生のお弟子だと自称していたある青年が、私の心をはげましてくれた言葉でした。

そういういろいろなことを、頭に浮べながら、軽卒にお訪ねしたことを、半分後悔しながら、ぼんやりとお庭を眺めていました。

ところが、お座敷に姿をお見せ下さった先生は、ゴシップや想像を裏切って、気軽な明るい、いかにも社交的な朗らかな方なのにまずびっくりしてしまいました。

いい加減の噂はするものではない、また噂を信ずるものではない、と、つくづく思ったことでした。お目にかかった瞬間に私の不安は一っぺんに吹き飛んでしまいました。あの青年の云った言葉がほんとだったのです。

そのことを後で青年に話しましたら、青年得意になって、

「先生にはいろんな面があるから一口にこういう方だと、云いきることは出来ませんよ。僕は一度浅草にお伴をした時、公園の砂利の上に座って乞食の真似をされた。その時なんざあ絶対に明るい社交的な方とは見えませんでしたからね」

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