錢形平次捕物控
本文約14,300字 ・ 読了時間 約29分
あらすじ(AIが作成しました)
白山にある白梅屋敷を訪れた錢形平次は、庭男の百助に追い返される。後を追ってきた姪のお組から、屋敷にまつわる不穏な噂を聞いた平次は、調査を開始する。不審な死を遂げた百助の事件を軸に、庭の老梅に隠された忌まわしい過去と、金兵衞夫婦が抱える深い闇が浮かび上がる。平次は持ち前の推理力で、屋敷に渦巻く執念の真相へと迫っていく。
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一
二月のある日、歩いてゐると斯う、額口の汗ばむやうな晝下がり、巣鴨からの野暮用の歸り、白山あたりへ辿りついた頃は、連の八五郎はもう、何んとなく御機嫌が斜めになつて居りました。
「大層元氣が無いやうだな、八」
平次は足を淀ませて、八五郎の長い顎を振り返りました。
「さういふわけぢやありませんがね、何處かで一と休みして、一服やらかさうぢやありませんか」
「煙草なら、歩き乍らでも呑めるぢやないか」
「風に吹かれ乍ら呑んだ煙草は身につきませんよ、それに掌の中で灰殼を轉がす藝當は、どうもあつしの柄にないやうで」
「氣取つたことを言やがる、それより、腹が減つたら減つたと正直に白状するが宜い、先刻から、野良犬を睨み据ゑたり、團子屋の看板を眺めたり、蕎麥屋の前でクン/\鼻を鳴らしたり、お前の樣子は尋常ぢやないぜ」
「大丈夫ですよ、野良犬なんかへ噛み付きやしませんから」
「實はな、八、少し目當てがあるんだよ、白山の白梅屋敷といふのを、お前聽いたことがあるだらう」
「知つてますよ、大地主の金兵衞の庭で、何百年とも知れぬ、梅の老木で名を知られた屋敷ですよ、龜戸には、梅屋敷や臥龍梅といふ名所もあるが、白山の白梅屋敷は、たつた一本の梅だが、山の手では珍らしいから騷ぐんでせうね」
「その梅は今を盛りだから、ちよいと見てくれと、此間から二度も使が來たのだ」
「へエ、梅を眺めたつて腹のくちくなる禁呪にはなりませんよ、親分」
「又腹の減つた話だ、お前といふ人間は、よく/\風流には縁が遠いな」
「親分だつて、歌もヘエケイもこね廻しやしないでせう」
「その通りだ、濟まねえが、梅を眺めて脂下るほどの人間には出來てゐねえが、續け樣に來た二本の手紙に、腑に落ちないことがあるのだよ。腹の減つた序に、その曲りくねつた梅の老木を眺めて、歸りは白山下で一杯といふ寸法はどうだい」
「有難いツ、さすがは親分、話がわかりますね、さう段取がきまると、腹の虫なんかにグウグウ言はしやしませんよ、梅でも松でも櫻でも、覺悟をきめて晒さうぢやありませんか」
「花札と間違げえちやいけない」