奇談クラブ〔戦後版〕
本文約11,100字 ・ 読了時間 約23分
あらすじ(AIが作成しました)
若き作曲家小塚金太郎は、ある結婚式で音楽の奇蹟と親友である深沢深の悲劇を語る。かつて天才と謳われた左近倉平は、他人の才能を金で買い取り、名声を得る山師であった。左近の助手を務めていた深沢は、自身の婚約者を奪われ、左近に搾取されてきた自身の苦境と芸術への冒涜に憤る。復讐を誓う深沢は、自らの真実を世に問うため、左近の不正を暴こうとする。これは、芸術の神聖さと、悪意に満ちた偽りの天才を巡る物語である。
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プロローグ
「さて皆様、私はここで、嘘のような話を聴いて頂きたいのであります。話の真実性については、皆様の御判断に任せるとして、兎も角も、これは決して嘘ではないということだけは、当夜の盛大な結婚式に列席した方々は、証明して下さることと思います」
話し手の小塚金太郎は、斯んな調子で始めました。名前はひどく世俗的で、手堅い商人かなんかのように響きますが、実はまだ若い作曲家で、と申しても近頃流行の流行歌の作曲者ではありません。芸術的で高踏的で、そして恐ろしく難解な曲をモリモリ作って、一部の人から騒がれている才人ですが、その小塚金太郎が物々しい枕を置いて、一体何を話そうというのでしょう。
「私は本当の音楽というものは、どれほど偉大な力を持っているかということに就てお話したいのであります。尤も昔から日本にも外国にも、音楽の奇蹟物語は、数え切れないほど夥しく伝えられておりますが、それは九十九パーセントまでは嘘八百で、信ずるに足るものは一つも無いと言ってよいのです。ところで、私がこれからお話しようとしていることだけは、私ばかりでなく、当夜の結婚式に列席した、二百何十人かの人が経験したことであり、決して神話や伝説の比ではありません。私は幾人かの友人達の迷惑を顧みず、この席上で発表しようと決意したのは、本当の音楽の力というものを、解って頂いた上に、私の親友――深沢深君の偉大な天才と、その悲しき前生涯を知って頂きたいためであります」
一
左近倉平――この名前を聞いただけで、皆様はあああの男かと仰しゃるでしょう。左近倉平こそは、まことに世界的に知られた日本人の一人で、その数多い作曲のうちでも、優れたものの二つ三つ、例えば「お江戸ファンタジー」や「にっぽんシンフォニー」などは、早くも世界の音楽界に紹介され、日本にもこれだけの優れた大芸術があるかと、世界の音楽批評家を驚かしたという嬉しいニュースは、皆様もよく御存じのことと思います。