TRENDIA CLASSIC

ひじりの家

柳田國男

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日向路の五日はいつも良い月夜であつた。最初の晩は土々呂の海浜の松の蔭を、白い細かな砂をきしりつゝ、延岡へと車を走らせた。次の朝早天に出て見たら、薄雪ほどな霜が降つて居た。車の犬が叢を踏むと、それが煙のやうに散るのである。山の紅葉は若い櫨の木ばかりだが、新年も近いのにまだ鮮かに残つて居る。処々の橋の袂、又は藪の片端などに、榎であらうか今散りますとでも云ふやうに、忽然として青い葉をこぼし始め、見て居るうちに散つてしまふ木がある。土持殿の御支配の頃から、否々皇祖御東征よりも更に以前から、海に近い県の里の野原では、寒い霜夜の月の明方ごとに、斯うして物の緑が土に帰して居たのであらうが、或時或旅人が通り過ぎて、之を美しいと見るのは瞬間であるなどゝ、自分は有りふれた斯んな事を考へ出した。それといふのも自分が今尋ねて行く人の境涯が、余り我々の生活と変つて居る事を、想像しながら来たからであつた。

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