TRENDIA CLASSIC

喪服

久生十蘭

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浜口治平

静江  妻

美紗  長女

八穂  次女

秋元 博  浜口の秘書

かつ

横浜、磯子屏風ヶ浦の台地にある浜口の邸。

早春。――午前十時頃。

サン・ルームの広廊をひかえた古風な食堂。

晴れた寒い朝。蹲踞の水に薄氷が張っている。芝生の広い庭のむこうに早春の海。

静江と八穂、食卓について遅い朝食をしている。

八穂 コオフィ……(珈琲の茶碗をつきだす) 静江 三杯目よ……いいにしておきなさい……また眼がギョロギョロするでしょう。 八穂 (パアコレーターをひきよせて珈琲をつぐ)寒くて死にそうだ。脛のあたりがすうすうする。(かつに)かつや、もっと薪を入れて。 かつ はい。 八穂 じゃんじゃん燃やせ、威勢よく。 静江 そんなに寒いかしら。あなた、どうかしているのよ。 八穂 ママ、夜中に寒波が来たの知っている?……すごかったんだぜ、窓ガラスにいちめんに氷花がついて。 静江 (かつに)旦那さま、昨夜、いく時頃お帰りだった? かつ 一時半でございました。 静江 なにか召しあがったの? かつ 寒いとおっしゃって、ホット・ウィスキーを…… 静江 調べものはなさらなかったのね。 かつ はい、すぐおやすみになりました。 静江 (八穂に)外資審議会、もうすんだのかしら。 八穂 (トースターにパンを入れながら)いままで起きてこないところを見ると、今日は休日よ……(かつに)美紗子さまは? かつ お寝みになっていらっしゃいます。 八穂 まだ二日酔いのつづきか……ずいぶん飲んだからな。無理もないや。 静江 (たしなめるように)八穂さん。 八穂 (朗詠する)お姉えさま……いかなる恋に傷ついて……うち棄てられた岸のほとりで、あなたはお果てになりましたか…… (パンにバターをぬる)

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