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TORENDIA

我が生活

本文約2,900字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

明治座で上演中の勧進帳を観に行く決意をした中原中也は、所持金をかき集めて芝居小屋へ向かう。会場で周囲の観客たちが知ったかぶりをして歌舞伎を語る様子や、安易に感情移入する姿に反発と嫌悪を抱き、中幕で劇場を後にする。銀座の夜道を歩きながら、常に夢の中に生き、社会の中で生きづらさを感じつつも、詩人として生きるほかない自らの孤独な内面と実存的な心境を綴る。

中原中也

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🎧 我が生活 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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明治座に吉右衛門の勧進帳が掛かつてゐる、連日満員である――と電車の中で隣り客の話してゐるのを聞いて、なんとなく観に行きたくなつたのであつた。観れば何時もながら面白く感ずるのだが、観るまでは大変憶怯で、結局一年に一度か二度しか歌舞伎を覗くことはないのが私のこれまでである。「観たいな……観よう!」と、電車が濠端を走つてゐる時思ひ定めた、「でもまた観ないでしまふんだらうな」とそのすぐあとでは思ふのだつた。明け放された窓からは初夏の風がサカンに頬や帽子の鍔に吹きつけてゐた。

それから二三日してからのことであつた。朝十一時に目が覚めた。これは私にしては、余程早起きなのであつた。私は独りで一軒の家に住んでゐて、毎夜、夜明近くまで読書する。昼間は落付かないし、出掛けてもさして面白くないので、私には朝早く起きることは大変時間の損失なのだ。それで何時も目が覚めるのは、大抵午後の二時頃だ。

で、「今日明治座に行けばゆける」と思つた。

本を売つて一円五十銭ばかり出来ると、明治座の見料が出来た。それから往復の電車賃を差引くと、やつと五等の入場料が残るだけで心細かつた。三時半から、夜の十一時近くまで、食事は取れないといふことになつたが、煙草を吸つて、水を飲んでれば、今日一ン日くらゐなんでもないと思ひながら電車に乗つた。

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