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TORENDIA

猟色の果

本文約2,600字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

蔵前札差の若主人・江島屋宗三郎は、現実の女性に飽き果て、怪奇な妖精との恋を夢想する日々を送っていた。ある雪の夜、宗三郎は根岸の寮の庭に佇む、白無垢姿の謎の美女を見出す。その姿に心を奪われた宗三郎が彼女を抱き寄せると、その顔はかつて火事で醜く焼け爛れ、大川に身を投げたはずの元妻・お絹であった。現世の女性を求め夢想の果てに奇怪な幻影を追う宗三郎の、狂気じみた心理と運命を描く。

野村胡堂

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🎧 猟色の果 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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女性というものの平凡さに、江島屋宗三郎は、つくづく愛憎を尽かして居りました。

持った女房は三人、関係あった女は何十百人、武家の秘蔵娘から、国貞の一枚絵になった水茶屋の女、松の位から根引いた、昼三の太夫まで、馴れ染めの最初は、悉く全身の血を沸らせるような、魅惑を感じたにしても、一度び手活けの花にして眺めると、地味で慾張りで食辛棒で、その上焼餅やきで口数が多くて、全く手の付けようのない駻馬と早変りするのです。

宗三郎は全くうんざりしてしまいました。金毛九尾の狐でも宜い、葛の葉更に結構、兎にも角にも、この女性に飽々した心を沸り返らせて、命までもと打込ませる魅力を発散する女は無いものであろうか。

お蔵前札差の若主人として、十何大通とやらの一人に数えられ、馬に食わせ度いほどの金を持って居る江島屋宗三郎は、根岸の寮の雪の一日を籠って、唐本の「聊斎志異」を読み耽り乍ら、斯んな途方もないことを考えているのでした。

この物語に出て来る、草木禽獣の精の妖しき美しさ、火花の散るような恋の遊戯、透き徹るような清冽な肉体など、江島屋宗三郎は夢心地に考えて居りました。あらゆる女出入に飽き果てた宗三郎に取っては、狐狸でも変化でも構わない、現世的な生活から逃離し、物的な慾望を持たない、恋の対象だけが望ましかったのです。

窓を開くと、冷たい風が颯っと流れ込んで、宗三郎の熱した頭を心持よく冷やしてくれます。何時の間にやら雪は止んで、五六寸積った庭を、十六夜の月が青白く照し、世界は夢の国のように、静寂に、神秘的に変貌して居るのでした。

雑俳や漢詩なども一と捻りする宗三郎は、立ち上って行灯の灯を吹き消しました。此冴え渡る月の下に、雪の夜景を満喫しようと思い立ったのです。

「おや?」

何やら、宗三郎の眼の前に、チラリと動くものがありました。

灯を入れた雪見灯籠のあたり、雪を頂いた松の緑が淀んで、池の水の一角が、柔かい雪景色に切り込む刃金のように、キラリと光る物凄い効果だったのかもわかりません。

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