全羅紀行
本文約17,100字 ・ 読了時間 約35分
あらすじ(AIが作成しました)
昭和十二年、全羅南北道を中心とする朝鮮の旅を綴る。柳宗悦らは、昔ながらの美しい工芸品が今も息づく土地の風土や心持ちに触れるため、各地の市場や窯場を巡る。土地の歴史や民衆の生活と分かち難く結びついた品々を蒐集し、朝鮮固有の美しさを記録することで、消えゆく工芸の価値を再発見し、紹介しようと試みる。旅を通じて得た品々とその背景を報告し、伝統的な技術と美意識を守ることの重要性を問いかける。
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昨年の旅はまた今年の旅を誘った。朝鮮を訪う人は多いが、私たちのような目的で足を運ぶ者は始めてかもしれぬ。古い物を求める人はあっても、新しい物を捜す者は絶えてなかった。だが古い習慣をよく守る朝鮮では、昔を受けてまだ無造作に美しい品物が方々で出来る。昔の朝鮮を見たいなら、今の朝鮮を見るに如くはない。私たちは今も続いて出来る品物に何があるか、それをもっと見たかったのである。更にまたどんな環境や心持から、それらの物が生れてくるのか、その根元をつきとめたかったのである。混り気のない朝鮮を見るためには奥地へと入らねばならない。
今度選んだのは全羅南北の両道であった。そこは風土の利から材料に恵まれ、昔から様々な工藝品が発達していたのである。それに昨年行き得なかった土地でもあった。私たちはこの全羅行に長く憧れを抱いた。
昭和十二年五月二日。早朝晴れ渡る半島の島々に迎えられて釜山に上る。京城からこの度の行を共にする浜口良光、土井浜一両氏と埠頭で落ち合う。朝鮮は何時来てもすがすがしい。去年もこの頃であった。今度また揃って出かけることの出来たのも大きな悦びである。
まずこの地の蒐集家竹下隆平氏を訪ねた。竹下氏は朝鮮瓦の蒐集家として聞えているが、その蒐蔵の中には多くの見事な磚や瓦の外に、菓子型、筆筒、真鍮の香炉など優品が多い。いずれも忘れ難いものであった。随分数多くを見ている吾々も、思いがけないものに逢って、新しい興奮を覚える。