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TORENDIA

オルゴール

本文約6,800字 ・ 読了時間 約14分

あらすじ(AIが作成しました)

北鎌倉の山頂に住む人形作家の守屋三郎は、建築模型のような精巧なオルゴールを製作している。ドイツの童話や人形を愛する守屋は、かつて軍需工場の精密作業に従事していた技師らと協力し、良質な玩具作りを目指す。孤独な隠遁者のような生活を送りながら、少年の頃からの夢を一途に追い求める守屋の工房を訪れた筆者は、木工に情熱を注ぐ彼の姿や、大切に守り続けてきたケーテ・クルーゼ夫人の人形を通して、その純粋な創作の魂に触れる。

三好達治

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🎧 オルゴール / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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人形のをぢさん守屋三郎さんは、支那文学の奥野信太郎さんと漫画家の横山隆一さんとの丁度中間位の恰幅であつて、容貌はどこやらそのお二人に似てゐる。笑顔のいい気軽なところも、頭の禿ぐあひもまた似てゐる。お酒はいけないさうだから、その点は別として、先のお二人と共通する一種の童心ないしは仙骨みたいなものが守屋さんに於てもその風貌にあふれてゐるのが、工房に案内されてまづ私に納得された。

工房は私ども二人の訪問者と主人と三人の膝を容れるのがやつとといふ空間をあました面積で、たいへん小造りにできてゐた。素人の手造りらしい感じのものであつた。一寸私どもは魔法の小箱に閉ぢこめられたやうな感じであつた。主人の仕事机らしいものはその奥まつたあたりにあつて、机上には「幸福のきのこ」といふ可愛いい松茸ができかかつてゐた。松茸は赤黄緑紫灰色とりどりに鮮明な絵具をぬられてくつきりと水玉の斑点を意匠に散らした寸にもたらないもので、それが兵隊のやうに並んでゐた。

「かういふものを息抜きにやつてゐるんですよ……」

といはれるのは、別の根気な仕事はさうさう毎日続くものではないから、といふ意味であつた。

さつそくオルゴールを見せていただく。オルゴールはどれもみな本格的な屋根と窓と煙突と或は鐘楼などをもつた構造のいい建物の中にしまひこまれてゐて、その入口のドアを開くと内部の楽器が鳴り出す仕組みになつてゐる。建物の構造はどれもみな釣合ひがよくしつかりとしてゐて、どこやら建築模型のやうなあんばい式な点もあつて一見オモチヤ臭くはない。それが両手の上に載るほどの大きさであるからオモチヤには相違ないが、守屋さんはそれらの建物に就てはまづ建築家としての建前から良心的で且つ審美的でなければなりませんね、といふ意見であつた。建物にはそれぞれ歴とした原型があつて、原型は写真や見取図や建築図面によつて精しく確かめられた上で、いくらか手心を加へて糞レアリズムに堕ちない用意が肝要です、といはれたのは至極尤もに聞えた。

「腑に落ちない点は専門の建築家に見てもらつてゐるんですよ……」

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