TRENDIA CLASSIC

蒼海を望みて思ふ

柳田國男

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私はいつかこんな折が有つたら、御話をして見たいと思つて居たことがあります。日本が四箇の大なる島から成立つて居るやうに考へることは誤つて居る。此誤は何時の時代からか知らぬが、兎に角全國圖と云ふものゝ出來てから後の事と思ひます。恐くは又例の通り、我邦の事を外國人の本から、教へてもらつて知つた位のことでありませう。少し考へて見たら分る如く、我々の住む島は、臺灣から千島に亙つて、稍大きなものが五百近くあり、其過半は現に住んで居るのです。此誤は國家の成長するにつれて、自然に放任して置いても斯うなつて行くべきものだつたかも知れませぬが、今になつて囘顧して見ますと、是が現在我々の一大問題、即ち日本の世界的孤立と云ふ形勢を生じた、一原因では無かつたかと思ふのであります。

斯邦の人は、大昔土工の技術を韓人から學んだとあります。而も多くの職業は世襲祕傳でありましたので、其術が汎く一般の利益に行渡らなかつたのです。全體に雨の多い國なので、飮水に困ると云ふことは無かつたが、其代り大部分の農民は、水の害を防いで平地に安住するの方法を知らぬ前、又遠國に美田となるべき土地の在ることを、知る手段の具はらぬ時代には、川の流に沿ひ海岸から離れて、上の方へ上の方へ入らうと力めたやうであります。又地形も之を促したやうに思ひます。大阪を始めとし、今日の稍廣い一帶の耕作地は、歴史時代の海又は遠干潟でありました。ほんの近世に堤が出來て、稻を作り得るやうになつたのであります。

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