本文へ移動
TORENDIA

自然の復讐

本文約6,800字 ・ 読了時間 約14分

あらすじ(AIが作成しました)

人類が自然を征服し文明を発展させる一方で、その歪みにより自然から受ける報いについて論じる。自然の理法を無視した開発や、人為的な保護による体質の弱体化、さらには社会的な弊害といった事象を、文明の代償として解説する。民族間の生存競争において、自然の復讐を甘受してでも科学技術や文明の進歩を追求せざるを得ない現代社会の苦境と、その中で取るべき姿勢を考察する。

丘浅次郎

速度
🎧 自然の復讐 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 10

一

自然を征服し得たことは人類の最も誇りとする所である。文明と云ひ野蛮と云ふも、畢竟、自然を多く征服し得たか、少なく征服し得たかの相違に過ぎぬ。火を以て随意に物を焼き始めてより、野獣を捕へて家畜とし、雑草を養うて作物としたのも、皆自然の征服であつたが、十九世紀に至つては、自然の征服が急に盛になつて、鉄道を敷いて大陸を征服し、巨船を浮べて海洋を征服し、更に二十世紀に入つては、飛行機を飛ばして天空をも征服するに至つた。水を用ひて灯を点じ、炭を燃やして氷を造るは素より、電波を使役して遠距離の間にも自由に通信し、エツキス放散線を利用して胎内の子供の骨をも写す。また血清を製造して微細なる病原生物を征服し、新薬「六〇六」を注射して「スピロヘーテ、パルリダ」をも絶滅し得ると云うて居る。斯くて人類は自然を征服し得たことを何よりの手柄と心得、文明の進んだことを大に得意として、今後も益々競うて自然を征服せんと努めて居るのである。

併し此所に一つの疑問がある。自然は果して斯様に人類に征服せられるのみで、敢へて之に対して復讐を企てる如きことは無いであらうか。我々が自然を征服し得たりと思うて得々として居る間に、恰も白蟻が堂や寺などを喰ひ弱らせる如くに、見えぬ所で絶えず彼が仇返しを為して居る様なことは無いであらうか。此様な問題は、今日の人類を標準とし、今日の世の中だけを見、目前の勝利に心を奪はれて、たゞ文明を謳歌し居る人等には、恐らく胸に浮ぶことさへ無いであらうが、遠く人類の過去の歴史を考へ、下等な獣類時代から、猿時代、野蛮時代、半開時代を経て終に現今の有様に達したまでの変遷の跡を探るときは、この問題に対して慥に然りと答ふるの外に途は無い様に思はれる。

二

丘浅次郎の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本