TRENDIA CLASSIC
人類の誇大狂
丘浅次郎
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精神病患者の中には一種自分が非常に有力な神聖なものである如くに思ひ込んで、万事その積りで行ふ者がある。例へば自分が実際人力車夫であるにも拘らず、総理大臣に成つた積りで、伊藤を外務大臣にしやうか、井上を内務大臣にしやうかなどと、其様なことばかりを考へ、医者が来れば之を秘書官の如くに取扱ひ、時々筆を取つて、某を何県知事に任ずるとか、某を従何位に叙するとかいふ辞令書を書いて居る患者がある。また自分が実際、天秤棒を担ぐ八百屋であるにも拘らず、神か仏に成つた積りで、総べて極めて尊大に構へる病人がある。斯様な病症を医者の方では誇大狂と名づける。
扨この誇大狂と云ふ病気は瘋癲病院に入つて居る金箔附の狂気に限ることであらうか。自分は健全な積りで病院などには入らずに居る我々は、決して此病に罹つては居らぬか。我々は自分が実際あるよりは、遙に高尚な神聖な有力なものである如くに思ひ込んで居る様なことは決して無いであらうか。此等の問題に答へるには、先づ我々の今日有する実験上の知識を基として虚心平気に宇宙に於ける人類の位置を考へ、其の結果に照らして判断しなければならぬが、斯くして見ると、我々普通一般の人間も多少この病気に罹つて居らぬ者は無い様である。
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