書簡 大杉栄宛
本文約1,300字 ・ 読了時間 約3分
あらすじ(AIが作成しました)
千葉県御宿の旅館に滞在する伊藤野枝が、東京の大杉栄へ宛てた書簡を収める。周囲からの非難に晒される自身の苦境や、執筆中の原稿の進捗、東京へ帰る日の心待ちを綴る。大阪へ行く前に大杉と過ごしたいという切実な想いや、二人の将来を巡る心境、離れている間に募る情愛が赤裸々に語られる。社会的な軋轢の中にありながら、宛先人への率直な感情と思索を記し、離別への不安と再会を熱望する私的な交流の側面を描く。
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宛先 東京市麹町区三番町六四 第一福四萬館 発信地 千葉県夷隅郡御宿 上野屋旅館
雑誌ありがたう御座いました。今皆よんで見ました。昨日からの不快が少し減じました。この位方々でやつつけられゝばいゝ気持になります。まけをしみでなく、あんまり皆がいい気になつてゐる馬鹿さ加減がをかしくなつて来ますもの、よくも/\口をそろへて下らないことを云つたものですね、すつかり痛快になつてしまひます。随分私は憎まれ者ですね。恋をすれば何時も石を投げられるにはきまつてゐますがね、少し烈しすぎますね、あなたに余程可愛がつて頂かないぢやこのうめ合せはつきませんよ、本当にあんまり可愛相ぢやありませんか、でも、私黙つてゐればよかつたと思ひます。あんなものなんか書かずにゐて、これから先に、ほんたうのことが分つた時に、皆を片つぱしから言ひまくつてやればよかつたと思ひますよ。
今頃は原稿が届いたでせうね、孤月には少し遠慮してやりましたが、あんなことを言つてゐる人だと知つたら、あのくだらなさ加減をもつとありのまゝにさらしてやればよかつたと思ひます。本当に馬鹿ですね。
もう何かゞすつかりきまつてしまひましたから、一日も早く東京に帰りたいと思ひます。どうかして十日位までにはたちたいと思ひます。何処にもゆくところもないし、することもなく一人で退屈してしまひます。昨日からまた本をよみました。女の世界の原稿も半分は書けましたけれど、まだ皆迄書き終りません。それから大阪の方の原稿を、お送り下さるに菊池氏の宛名にして下さい。今朝電話をかけにゆかうと思ひましたけれど、お金がないからよしました。お留守だとつまらないから。
よつちやんが、昨夜身うけされて行つてしまひましたよ。あさえさんも行くさうです。こそちやん一人になりました。大阪からは早く来るやうにと幾度もさいそくがきます。でも今度ゆけばまた暫くあなたに会へないのですね、それを考へると、いやになつてしまひます。