戦争と平和
本文約9,400字 ・ 読了時間 約19分
あらすじ(AIが作成しました)
戦争と平和を相反するものと見なす通念に異を唱え、人類の歴史は生存競争による絶え間ない戦いの記録であると論じる。平時と戦時を生活の異なる時期と捉え、真の平和など存在しない以上、平素から戦時と同様の覚悟で軍備や科学技術の進歩に努める必要性を説く。さらに、物質的文明の発展を軽視する風潮を戒め、種族の維持と独立を保つためには科学を重んじ、他国との競争に勝ち抜く姿勢こそが肝要であると主張する随筆である。
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日露戦争の始まって以来、どの雑誌もほとんど戦争の話で持切りのありさまで、あるいは海戦陸戦の実況を報じ、あるいは戦時における人民の心得を論じていたが、これは時節柄もっともな次第であった。しかしそのうち、戦時における心得を論じたものを見るに、多くは戦争と平和とを相反するもののごとくに見なし、戦時には平常と異なった特別の心得方が必要であるかのごとくに説いてあるが、戦争がすんで平和が回復せられたのちに、平和は戦争の反対であると誤解して、戦時に必要な心得をことごとく捨てて顧みぬようなことでもあっては、せっかくの戦勝の利益もその大部はしばらくの間に消えてしまうおそれがある。かような失策を防ぐためには、平生から戦争とは何か、平和とは何かという問題を研究してこれらを明らかにしておかねばならぬ。
世の中には平和はつねであって、戦争は例外であると思うている人がとかく多いようであるが、世界の歴史を調べてみれば、実際はその反対であることが明らかに知れる。試みに歴史の中から戦争のあった時間だけを除いたとすれば、残りはほとんど何もない。かしこが平和であるときには、ここで戦争があり、甲の所で戦争が終わるころには乙の所で戦争が始まる。全世界を通じていえば、どこにも戦争のないという日は開闢以来おそらく一日もなかろう。一国一国に分けて論ずれば戦争と戦争との間には若干ずつの平和の時代がはさまっているごとくに見えるが、これもていねいに考えてみると決して真の平和ではない。その間には必ず砲台を築き、軍艦を造り、できうる限り兵力を整えて、意識的かあるいは無意識的かに次の戦争の準備に全力をつくしているゆえ、機が熟すればささいな口実を種にしてたちまち戦い始める。およそ戦争の芽を含まぬ平和は今日にいたるまでいまだ決して一回もなかったと言うてよろしかろう。さればいわゆる平和なるものはあたかも芝居の幕間のごときもので、単に次の戦争に対する準備の時期を言い現わす言葉に過ぎぬ。