TRENDIA CLASSIC
十和田湖
泉鏡太郎
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一
「さて何うも一方ならぬ御厚情に預り、少からぬ御苦労を掛けました。道中にも旅店にも、我儘ばかり申して、今更お恥しう存じます、しかし俥、駕籠……また夏座敷だと申すのに、火鉢に火をかんかん……で、鉄瓶の湯を噴立たせるなど、私としましては、心ならずも止むことを得ませんので、決して我意を募らせた不届な次第ではありません。――これは幾重にも御諒察を願はしう存じます。
――古間木(東北本線)へお出迎ひ下すつた以来、子の口、休屋に掛て、三泊り。今また雑と一日、五日ばかり、私ども一行に対し……申尽くせませんまで、種々お心づかひを下さいましたのも、たゞ御礼を申上げるだけでは済みません。御懇情はもとよりでございますが、あなたは保勝会を代表なすつて、湖の景勝顕揚のために、御尽力をなすつたので、私が、日日社より旅費を頂戴に及んで、遥々と出向きましたのも、又そのために外なりませんのでございますから、見聞のまゝを、やがて、と存じます。けれども、果して御期待にかなひますか、如何か、その辺の処は御寛容を願ひたう存じます。たゞしかし、湖畔五里余り、沿道十四里の間、路傍の花を損なはず、樹の枝を折らず、霊地に入りました節は、巻莨の吸殻は取つて懐紙へ――マツチの燃えさしは吹き消して、もとの箱へ納めましたことを憚りながら申し出でます。何は行届きませんでも、こればかりは、御地に対する礼儀と真情でございます。」
「はあ――」
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