村の成功者
本文約40,300字 ・ 読了時間 約81分
あらすじ(AIが作成しました)
山中村で暮らす卓造は、夏休みを利用して帰省する。この村は角町や○○町から離れた辺鄙な場所にあった。やがて村では、大滝の権利や工場の誘致に伴う大規模な開発話が持ち上がる。地価の上昇により村が富むと期待する親戚の睦らに対し、卓造の父は開発が村の風儀を乱すと反対し、学校の建築計画などを温める。開発の波に揺れる山中村の様子と、それを取り巻く人々の思惑や生活の変化を描く。
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山の中の山中村
乗合自動車は又々坂へ差しかゝった。○○町の中学校から村へ帰る卓造君は隅っこに大きな体躯を縮めて居睡りをしていた。連日の学期試験が今朝終った。これから長い暑中休暇が始まる。
「この切通が出来て大助かりですよ」
と一時喋り止んだ老人が扇子をパチ/\させながら又やり出した。
「以前はこゝを胸突と申しましたな」
と中老が受けた。
「然うですよ。ひどいところでした。それをガラクタ馬車で通ったんですから随分無法な話です」
「私の乗っていた前の馬車がこの先で谷へり落ちましたよ」
「危いことでしたな」
「怪我人が出来て大騒ぎをしていました。それもその一人がお医者さんでしょう。さあ、お医者さんを呼んで来いと言っても、その人が村のお医者さんでしたから、何うも仕様がありません」
「それは/\」
「到頭一人手後れで死んだとか申しましたよ」
「全く命がけでしたな、昔のガタ馬車は」
「馬って奴は気紛れですからね」
「然うですとも。それに坂へ差しかゝると可哀そうでなりません」
「人力も気の毒ですよ」
「あなたはこの辺の馬車に等級のあった頃を覚えていますか?」
「はあ?」
「等級ですよ。一等二等、いや、上等中等下等と三つありましたよ」
「はゝあ。存じませんな」
「○○町へ鉄道が出来てから間もないことですから、もう彼れ是れ四十年の昔になりますよ」
「それじゃ私が子供の時です」
「同じ馬車に上等中等下等がありました。私は当時必ず下等でした。『おい、若い衆、下等で行こう』と馭者が定めてしまうから仕方がありません」
「一体何ういう風に分けてあるんですか?」
「山路へ差しかゝると、血気盛んな男の客は下りて車を押します。馬の手伝いです。それですからこれが下等です」
「成程」
「それから車体を軽くする為めに唯下りる丈けの客があります。これが中等です」
「上等は?」
「上等は女子供か年寄に限ります。これは一切下りません」
「はゝあ、巧い考えですな」
「それでいて馬車賃は皆同じです、動物を劬り弱いものを扶けるという精神が現れています、この頃から見てもナカ/\進んだ考えじゃありませんか?」
「成程、感心しました」