TRENDIA CLASSIC

食料名彙

柳田國男

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序 諸君の食習採集手帖が整理せられたら、この語彙は又大いに増加することであらうが、それを促す意味を以て、先づ自分の今までに控へて置いたものを竝べて見る。此中には救荒食物は入つて居ない。又所謂いかもの食ひの食へば食へるといふものも入れてない。我々の目的は通常の生活を明かにするに在る故で、又昔食つたといふだけのものも入れない。

マスモノ 五穀の總稱として桝物といふ語がある(土佐方言の研究)。佐渡でもマスノモノ。米麥などの桝で量るもののことである。亥の子の日には桝の物を一切外に出さぬなどといふ。

キチマイ 吉米。よき米といふことをいつの頃よりか音でいふ。是糯米と區別する名といふのは(淡路)、後の解であらう。もとは常の日は粳米より惡いものを食つて居たからで、それには屑米又粟、稗の類も算へられたことゝ思ふ。

シャクノコメ 粳米をシャクの米といふことは四國ばかりで無い。鹿兒島縣十島の惡石島でも、粟に糯と粳との二種があり、後者をサコアハ又はシャアクともいふ(民族學研究二卷三號)。シャクは瓢のことで、「ひさご」といふ語から導かれて居る。是も桝物と同じに瓢で量つて使ふ粟の義と思はれる。器を以てはかるのは、人別に定量があつたことを意味する。即ちそれが桝の最初の用途である。

ヨネスル ヨネは農家では稻米だけに限つては居なかつた。たとへば信州遠山では、粟などの搗いて外皮を剥いたものもヨネである(方言六卷一號)。天龍川を越えて三河の北設樂郡でも、稗、麥共に皮をとつて精げることをヨネスルと謂ふ。ヨネしたものは家の中の物置に置く。籾のまゝなのは外のアラモノ庫に入れて置く。アラモノとは脱せぬ穀物の總稱である。

イマズリ 籾で貯へて置いて、盆の頃になつて籾摺したものをエマズリ即ち今摺といふ(頸城方言集)。普通の食料には早くからまとめて摺つて置き、且つ色々の調合をしてすぐに炊けるやうにして貯へてあつたのである。

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