TRENDIA CLASSIC

水海道古称

柳田國男

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地名の呼び方は、時とともに変って行くのが普通で、現代はことにその例が多くなった。たいていは外から来た人たちが、文字だけを見て自分の思った通りに読んでしまうからである。著明な例としては、相撲甚句にも出て来る「出羽で荘内鶴ヶ岡」そのツルガオカを今ではツルオカ、木曾の福島はフクジマであるのに、旅人は皆フクシマというのみか、土地の住民までがそれを訂正しようとはしない。東京市中の駅名のアキハバラなども、鉄道でそういうから誰も争わないが、明治初年に始めてこの地名のできたときは、アキバガハラだった。地名の呼び方の正しいか正しくないかのごときはそう簡単にはきめられない。大勢の向うところ、これからだって何と変るか知れたものでなく、ちがっているから返事をせずにいるというわけにも行くまい。

ただこの二つの称え方の、どちらが古いか、またはどちらに由緒があるかまでは誰にでも言える。地名の二通りの呼び方が、二つ一ぺんに始まった気づかいはないからである。その上に、人がこの地名を口で付けたかあるいはまた文字で付けたかも、少し考えてみればわかることである。ある一つの土地の名の起りが、古ければ古いほど、そこには文字を知っている人は少なかったろう。そうしてそこに住む者の全部が承知しなければ、地名などは行われるものでない。どんな気のきいた字で書いておこうとも、多数が読んでくれなければ、地名として通用するはずがない。

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