民法に所謂私生子、東京などで普通にテテナシゴといふものを、地方で何と呼んで居るかといふことを考へて見るのは、婚姻制度研究の一方法として價値がある。今までに知れて居る二三の實例を掲げて、出來ることならば此上の蒐集を勸めたいと思ふ。出處は一々に示さなかつたが、何れも其地の方言集又は郡誌の如き、近年の刊行物から拾ひ出したものである。もし反對の事實があるならば注意を願ひたい。
ホンマチゴ 羽後仙北郡
シンガイゴ 越中の一部
フリタゴ 「出雲方言」
ホンマチゴもシンガイも又フリタも略同じ意味で、内證ごと若くは一個人の私事といふことである。通例はホマチといへば隱してする貯金であるが、必ずしも戸主に知らしめないといふ意味は無いと見えて、富山縣では又シンガイ田と謂つて下男の作る田もあつた。情夫をシンガイ男といふ例もある。出雲では又「ヤマゴメ」とも謂ふさうである。是はよく分つて居る。
ヨクナシゴ 越後西蒲原郡
ヨクナシといふ語は北會津などにもあつて、婦人の色々の男と附合ふ者を意味して居る。但し何故にそれをヨクナシと謂ふかは、使つて居る人たちに問うて見ぬと判然せぬ。次にどうしても解し得ぬのは、
ダゴノコ 能登珠洲鳳至
ネコダ 飛騨の一部
ツボッコ 信州下伊那
ツボッコ 遠江磐田郡
などである。ネコダは物を背負ふ場合に着る藁製のせなかあての名で、それと何かの關係があるらしい。ツボは事によると外庭のことであるかも知れぬ。陸中遠野附近で下女に生ませた子をマヤゴ即ち厩舍兒と呼んで居る。許されなければ家には入れぬからの名であらうと思ふ。
ヒロイッコ、ヒジョッコ 信州下水内郡
ミシケゴ、ヨベコ 鹿兒島縣一部