TRENDIA CLASSIC
にが手の話
柳田國男
1 / 4
苦手といふ言葉の用ゐ方が、東京では此頃變つて來て居るやうである。たとへば酒好きが、牡丹餅は僕にはニガテだと謂つたり、又は我まゝ息子が伯父さんはニガテだなどと謂ふのは、單に「是ばかりは閉口」といふやうな意味で、大抵はどうしてニガテなのかを知らずに、たゞ人がさういふからといふだけで使つて居る。地方には全くこの單語の無いところ、又は新たに都會から學んで行つたところも有らうが、もしも古くから使はれる土地があるとすれば、きつとちがつた意味をもつて居ることゝ思ふ。試みに誰か年を取つた人に尋ねて見てもらひたいものである。
別にわざ/\古い用法に復歸する必要も無いが、言葉は知らぬうちに誠にたわいも無く、中味をかへてしまふものだといふことを、心づくことは何かの參考になる。さうして少なくともこの一語の關する限り、是から聽いたり讀んだりする時に、注意と興味とが多くなるであらう。私の記憶が誤らぬならば、ニガテはもと碁將棋球突きなどの勝負に就て、主として用ゐられて居た時代があつた。本當は自分も弱いのでは無いが、不思議にあの男だけにはよく負ける。どうも彼は私にはニガ手だ。斯ういふ風によく我々は使つて居たのである。外國でも同樣らしいが、勝負事の言葉はよく應用せられるもので、ダメとか岡目八目とかいふ言葉は、碁など打たない人までも今はよく使つて居る。ニガテも多分その一つであらうが、勿論そこが最初だつたら、斯んな言葉は生れないのである。
柳田國男の他の作品
TRENDIA CLASSIC
耳たぶの穴の一
例
柳田國男
耳たぶの穴の一例
柳田國男 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
アテヌキという
地名
柳田國男
アテヌキという地名
柳田國男
TRENDIA CLASSIC
伊豆大島の話
柳田國男
伊豆大島の話
柳田國男
TRENDIA CLASSIC
家を持つといふ
こと
柳田國男
家を持つといふこと
柳田國男
TRENDIA CLASSIC
おばけの声
柳田國男
おばけの声
柳田國男
TRENDIA CLASSIC
親方子方
柳田國男
親方子方
柳田國男
TRENDIA CLASSIC
垣内の話
柳田國男
垣内の話
柳田國男
TRENDIA CLASSIC
潟に關する聯想
柳田國男
潟に關する聯想
柳田國男
TRENDIA CLASSIC
かはたれ時
柳田國男
かはたれ時
柳田國男
TRENDIA CLASSIC
狐の嫁取といふ
こと
柳田國男
狐の嫁取といふこと
柳田國男
TRENDIA CLASSIC
幻覚の実験
柳田國男
幻覚の実験
柳田國男
TRENDIA CLASSIC
祭禮名彙と其分
類
柳田國男
祭禮名彙と其分類
柳田國男