TRENDIA CLASSIC
鶺鴒の巣
尾崎士郎
1 / 6
鶺鴒が街道に沿った岩かげに巣をつくった。背のびをしなくても手の届くほどの高さであるが、今まで誰れも気がつかなかったらしい、ということをある夕方瀬川君が来て話した。瀬川君の宿と南里君の宿とは十町ほど離れているが、道は一本筋だから彼は南里君の宿へあそびにくるごとに鶺鴒の巣の前を通るわけだ。巣のある場所は瀬川君の宿に近いところで、そのちょっと手前に小さい石地蔵がある。そこは真っ暗な道で、足の下の樹立の闇をえぐってひびいてくる激流の音が絶望的な呻き声のように伝わってくる。しかし、断崖は石地蔵の少し先きのところで道に並行して急に傾斜しているのでその突端までくると、瀬川君の宿のあかりが見えるのである。鶺鴒の巣のあるのはその曲り角だ。曲り角では人間は大抵の場合、遠い眺望の変化に気をとられて、すぐ眼の先のことを忘れているものだ。だから、鶺鴒が街道筋の断崖の上に巣をつくったのは大胆すぎると言えば大胆すぎるが、しかし賢明な方法であったとも言える。何故かといって往来に近い場所の方が蛇を避けるには都合がいいにきまっているし、それに第一、彼は人間よりも以上に蛇を恐れなければならないのだから。――
瀬川君は妙に昂奮しながら話した。彼がその巣を見つけたとき、町はずれの淫売宿にいる若い女がうしろからのぞきこんでいたということに彼は不安を感じていた。
尾崎士郎の他の作品
TRENDIA CLASSIC
秋風と母
尾崎士郎
秋風と母
尾崎士郎
TRENDIA CLASSIC
生きている忠臣
藏
尾崎士郎
生きている忠臣藏
尾崎士郎
TRENDIA CLASSIC
親馬鹿入堂記
尾崎士郎
親馬鹿入堂記
尾崎士郎
TRENDIA CLASSIC
運命について
尾崎士郎
運命について
尾崎士郎
TRENDIA CLASSIC
河鹿
尾崎士郎
河鹿
尾崎士郎
TRENDIA CLASSIC
風蕭々
尾崎士郎
風蕭々
尾崎士郎
TRENDIA CLASSIC
学校騒動
尾崎士郎
学校騒動
尾崎士郎
TRENDIA CLASSIC
現代語訳 平家
物語
尾崎士郎
現代語訳 平家物語
尾崎士郎
TRENDIA CLASSIC
菎蒻
尾崎士郎
菎蒻
尾崎士郎
TRENDIA CLASSIC
十三夜
尾崎士郎
十三夜
尾崎士郎
TRENDIA CLASSIC
三等郵便局
尾崎士郎
三等郵便局
尾崎士郎
TRENDIA CLASSIC
瀧について
尾崎士郎
瀧について
尾崎士郎