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TORENDIA

菎蒻

本文約22,900字 ・ 読了時間 約46分

あらすじ(AIが作成しました)

鷺野伍一は、雪の朝に訪れた従弟から青年将校らによる決起を知らされる。突然の出来事に動揺しつつも、生活を営むことへの諦念や得体の知れない虚無感を抱えた伍一は、時代の変転の中で自身の生き方を模索する。その後、かつての知人が事件に関与し拘束される様を見届けた彼は、日常生活の表層下に潜む不安や、かつての情熱が色褪せた後の無感動な自己を自覚しながら、未来の見えぬ日々を淡々と過ごしていく。

尾崎士郎

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底冷えのする寒さで眼がさめた。夢からさめたあとの味気なさのせいでもあるが横の蒲団に枕をならべて眠っている妻と子供の顔が鈍い電灯の灯かげの中にたよりなくうきあがって見える。自分の力で支えきれないような不安がどっと胸にこみあげてきたのである。生活の重みに堪えられないというかんじではなくずるずるとすべり落ちた小市民的な感情の中で何時の間にかわれとわが運命の落ちつくさきを思いがけなくも見届けたという気もちなのである。すると、眼にうつる部屋の中の調度や、床の間をうずめている子供の玩具類までが、どっしりと根をおろした生活の中でまだ完全な父親としての覚悟を持ちきれないでいる自分の心に、もうどうにもぬきさしのならぬ人間生活の一断面を見せつけるような宿命感を呼びさますのである。ああこれが生活の実体であった、――と今更のように考えなおさずにはいられないような瞬間の佗びしさに胸をしめつけられるような思いで鷺野伍一はそっと起きあがるとすぐに雨戸をあけた。不意につめたいものが頬をかすめて吹きつける粉雪の白さが眼に沁みるようである。伍一は慌てて雨戸をしめると、

「おい、雪だよ」

と浮ついた声で、眠っている妻をよびおこし、そのまま蒲団の中へもぐりこんだ。妻の登代は「う、う」とうめくように呟きながらうす眼をひらいたと思うと添寝をしていた四つになるマユミ(女の子の名前)の、蒲団のそとへはみだした肩を片手でおさえながら自分の方へひきよせた。もうそろそろ三月だというのに季節はずれな気候の変化がだしぬけにひとすじの明るさを彼の胸にそそぎいれた。言って見れば残された青春のまぼろしを心のどこかにさぐりあてたというほどの気もちで彼は雪が二日も三日も降りつづいてくれればいいがと心に念じながら、そのままぐっすりと眠ってしまったらしい。まもなく、誰かが玄関口でさけんでいる疳高い声が聞え、やがてせきこんだ調子のするどさがうつらうつらとしている伍一の神経にチカチカと迫ってくると、彼は急に不穏な予感に襲われながらとび起きた。

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