学校騒動
本文約35,800字 ・ 読了時間 約72分
あらすじ(AIが作成しました)
早稲田大学で天野為之博士の学長留任を求める学生たちが、高田早苗博士の再登板を阻止しようと運動を展開する様子を描く。政治科の西方現助は、先輩である東山松次郎に誘われ、学問の自由と独立を掲げる「革新団」の活動に身を投じる。ロシヤ革命の報に触れるなど激動の時代背景の中、学生たちは警察の介入や学内の対立に翻弄されながら、大隈重信の意向が絡む複雑な学長問題の渦中で、自らの政治的立場を鮮明にしていく。
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その年(大正六年)、二十歳になったばかりの西方現助は、ある日の午後、寄宿舎の門を出て鶴巻町の大通りへぬけようとする曲り角で彼の先輩である東山松次郎に会った。東山は浴衣を着て両袖を肩にたくしあげている。彼は苦学力行の士であった。政治科在学中から「青年雄弁」という雑誌を経営し、自分でその社長になっている。小柄でいつも色艶のいい頬をしていた。――精悍で、キビキビしているだけに、素ばしっこく、ぬけ目のないかんじが一挙一動の中にくっきりとうかびあがっているのである。どの大学や専門学校でも雄弁会全盛の時代なので、彼がその頃売れだしたばかりの「野間清治」の向うをはって、「青年雄弁」の発行を企てたことはたしかに着眼の妙を得たものであった。西方現助は予科生の頃に、東山の雑誌の編輯長で、「早稲田大学雄弁会」に羽振りを利かせていた木尾鉄之助にたのまれて、「青年雄弁」の臨時記者になり、その頃、新帰朝者として英文科の教授になったばかりの坪内士行の演劇論に関する談話筆記をやったことがある。もちろん、報酬なぞを意識においてやった仕事ではない。むしろ、そういう仕事に関与しているというだけで彼は内心得意でもあれば、そのとき自分を推挙してくれた木尾に対して尠なからず感謝もしていた。