TRENDIA CLASSIC

高きへ憧れる心

与謝野晶子

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人間は大抵平地に住んでいる。それで天とか山とかを仰いで高い所へあこがれる心を、悠久な大昔の野蛮人が既に持っている。高い所に在るものは太陽でも、雲でも、月や星でもすべて美くしいものに感ぜられる。美くしいばかりでなく、気高いもの、偉いもの、神秘なものにさえ感ぜられる。神が天に住んで人間を司配すると考えて宗教が発生したのも、もとは此の高きにあこがれる心からであった。

美くしいものは地上にも沢山にある。園や野の花も美に富んでいる。人工で作った色色の物も美くしい。夜間のネオン・サインのような灯火も美くしく、第一に人間の美男美女が美くしい。それに関らず我我が彼の青空の色に心を引かれたり、秀でた山岳を望んで夏期に登山欲をそそられたりするのは、手近なものよりも、我身に遠い「美」が気高く偉いものとして感ぜられるからである。

実際、高い山などへ登って見ると、空気一つでも新鮮清涼で、地上の生活の俗気と炎熱とが急に一掃されるのを覚える。山上から俯瞰した大地の闊い景色も心を爽快にする。人間が高きに憧れる心を幾分でも満足させることの出来るのは、唯だ高い山に登る以外に方法がない。それだけ登山は楽しいものである。

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