姑と嫁について
本文約6,700字 ・ 読了時間 約14分
あらすじ(AIが作成しました)
工学士の妻が、度重なる苛酷な干渉と離別の強要に耐えかね、滞在中の姑に刃物を投げつけた事件を題材に、家庭内の悲劇を論じる。教育ある妻がヒステリイの発作により引き起こしたこの出来事を経緯から詳述し、旧弊な思想に固執する姑と、それを諫止できない夫の思慮不足を指摘する。さらに、現代的思想を欠いた老婦人の心理や、日本社会に伏在する姑と嫁の葛藤を分析し、自立を尊重する新しい姑像を提唱する。
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或会社の技師をしている工学士某氏の妻が自分に対する苛酷を極めた処置に堪えかねて姑を刺したという故殺未遂犯が近頃公判に附せられたので、その事件の真相が諸新聞に現れた。嫁が姑を刃傷したということは稀有な事件である。無教育な階級の婦人間においてさえ類例を見出しがたいことであるのに、工学士の妻として多少の教育もあり、女優として立とうと決心していたほど新代の芸術に対する渇仰もある婦人が、こういう惨事を引起すに至ったについては何か特別な理由がなくてはならない。私は諸新聞の態度が初めから一概に被告を憎んで掛らずに、力めて細かに事件の真実を伝えようとし、その結果『東京朝日』記者のように特に被告に対して同情のある報道をされたことを、被告と同じ女性の一人として感謝する者である。
新聞紙の伝うる所に由れば、姑という人は明治以前の思想をそのままに墨守して移ることを知らず、現代の教育を受けた若い嫁の心理に大した同感もなく、かえって断えず反感を持って対し、二言目には家風を楯に取り、自分の旧式な思想を無上の権威として嫁の個性を蹂躙し圧倒することを何とも思わず、聞き苦しい干渉と邪推と、悪罵と、あてこすりとを以て嫁を苛めて悔いぬような、世にいう姑根性をかなり多く備えた婦人であるらしい。私は幼い時から私の郷里などにそういう無智な姑の少くない事を見聞しており、また一般に温厚な嫁ほどそういう姑の下にあって人の知らない多大の苦痛を忍んでいることを知っているので、姑に対する新聞紙の報道を誇張だとは思わない。