おかめのはなし
本文約2,600字 ・ 読了時間 約6分
あらすじ(AIが作成しました)
土佐の国で夫を深く愛するあまり、自身の死の間際に再婚しないことを誓わせた妻が物語の鍵を握る。妻の亡き後、夫は急速に衰弱し、毎晩のように枕元へ現れる妻の霊に苦しめられる。死者との約束を頑なに守ろうとする夫の異常な心身の不調を案じた母は、寺僧の助言を仰ぎ、霊を鎮めるための儀式を執り行う。墓を開き、棺に眠る妻の遺骸に梵字を記すことで怪異を止めようとする、幽霊譚の側面を持つ怪談を描く。
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土佐の国名越の長者權右衞門の娘おかめは、その夫八右衞門を非常に好いていた。女は二十二、八右衞門は二十五であった。余り夫を愛するので、世間の人は嫉妬の深い女だろうと思った。しかし男は嫉妬されるような原因を作った事もなかった。それで二人の間にはいやな言葉一つ交された事もなかった。
不幸にしておかめは病身であった。結婚後二年にもならないうちに当時土佐に流行していた病気にかかって、どんな良医も匙を投げるようになった。この病気にかかる人は、喰べる事も飲む事もできない、ただ疲れてうとうとして、変な夢に悩まされているだけであった。おかめは不断の看護を受けながら、毎日次第に弱って行って、とうとう自分でも助からぬ事が分って来た。
そこで彼女は夫を呼んで云った、
『私のこのいやな病気中あなたがどんなに親切にして下さったか口では云えません。こんなによくして下さる方はどこにだってありません。私、あなたに別れるのが本当につらい。……考えて下さい、私まだ二十五にもなりません、――その上私の夫ほどよい人はこの世にはありません、――それでも私は死んで行かねばならない。……いいえ、駄目、駄目、気休めをおっしゃっても駄目ですよ、どんなお医者だってどうにもならないのですもの。もう二三ヶ月生きていたいと思いましたが、今朝鏡を見たら、今日のうちに死んで行かねばならぬ事が分りました、――そう、丁度今日です。それであなたにお願がありますの――私が安心して死んで行けるように思って下さるようなら、――その願を私にかなえさせて下さい』
『一寸云って御覧、何だか』八右衞門は答えた、『私の力でできる事なら、どんな事でも喜んでして上げる』
『それが――あなたのちっとも喜ばない事なんです』彼女は答えた、『まだ若いのですもの、こんな事をお願することは、中々――大変――むつかしい事ですわ、でもその願事は私の胸に燃えてる火のようです。死ぬ前に云わせて下さい。どうぞ。……ね――あなた、私が死んだら早晩、皆であなたに奥様を持たせるでしょう、ね、あの、約束して下さいませんこと、もう二度と結婚はしないと、――おいやですか……』