荒野の冬
本文約4,100字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
雪や土地の凍結を研究する著者が、仕事で北海道の奥地を巡った際の体験や見聞を綴る随筆。広大な原野に点在する過酷な開拓地の現状や、厳しい自然環境の中で生きる入植者たちの生活の様子を詳述する。また、都市部と北海道の地理的感覚の乖離や、開発の歴史、現地の過疎化の実態に触れながら、為政者の視点と実際に過酷な北辺の地で人生を送る人々の現実との間に生じる思索を記す。
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北海道の奥地深く、荒野の冬の姿といえば、『カインの末裔』の描写を思い出す人が多いであろう。
鉛色の空が低くたれこめた下には、木も家も、吹きつけられた雪にただあだ白い凄気を帯びて静まりかえっている。そして一度吹雪が来ると、天地が白夜の晦冥とでもいうように、ただ一色に鼠色になる。そして人々は白堊の泥河の水底に沈んだように、深い雪の下で僅かに蠢きながら、辛うじての生活を保って行くのである。
二十五年前に、有島氏によって描かれた、こういう荒野の冬は、まだ北海道の奥地では今日も見られるのである。北海道の冬といえば、ストーブをかこんでの団欒とか、銀嶺とスキーの話とかが語られることが多い。そして私なども、札幌の生活だけをしていたならば、開拓移民たちの経験する北海道の冬というものを、最後まで知らず仕舞いにすんでしまったことであろう。
幸い、と言えるかどうかはわからないが、私の研究はこの十年ばかり、雪とか土地の凍結とかいう方面に傾いて来たので、仕事の都合上、よく原野の冬を訪れることがあった。そして『カインの末裔』の人々の生活を実際に見る機会にあって、いろいろと感慨をいだくこともあった。
北海道の開拓民たちが、遙々と内地の村から移り入るいわゆる原野のことを語ろうとするならば、まず北海道の広さについての正確な概念をつくる必要がある。
それには一つ面白い話がある。前の冬、私は凍上の調査のために、二月の末から三月にかけて、八カ所ばかり奥地の支線の凍った土を掘って廻ったことがある。土地が凍ると、鉄道の線路でも家でも盛んに持ち上げられて困るので、その現象を凍上と称して、寒い学問の方では、一つの課題になっているのである。