佐藤春夫詩集
本文約6,400字 ・ 読了時間 約13分
あらすじ(AIが作成しました)
二十年にわたり詩作を続けてきた佐藤春夫が、青春の追憶や日々の機微を込めた自選の詩編を収める。野に咲く草花や風、古びた品々、異国の詩や訳詩などを題材に、愛する人への思いや過ぎ去りし日々への哀歓を綴る。詩集は、自身の感性を箱にたとえたオルゴールや、人妻との静かな時間、故郷の秋の情景などを通じて、孤独や憂い、そして詩人としての存在のありようを静かに描き出す。
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詩集
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堀口大學に
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詩集はしがき
數奇なるはわがうたの運命なるかな。かつては人に泣かれしものを、いまは世に喜ばるるとぞ。しかも評家は指ざし哂ひて餘技なるのみといふ。或は然らむ。魯なるわれは餘技なるもののために命をささげ來にけらし、志してより二十年のこの朝夕を。かくてわが青春のかたみにと一卷の歌ぐさぞ僅にわれにのこりたる。心すなほなる時には稚き言葉なほおぼつかなく、言葉やや長けにしとおもへば心はすでに彈みなし。いのち短きものいかでかひとり麗人のみならむや。もみぢの下葉なす今日のものをさへ加へて、數ふればわがうたの百にも足らはぬこといと口惜し。古人は螢雪を説きぬ、げに一ときを惜むべきものただに春宵のみにはあらざりけらし。或はゆたかなる才のまにまに春蠶のよく絹を吐いて、千首詩こそ萬戸侯を輕んじもせむ。たとひ一吟に雙涙をながすとも百にも滿たぬうたかたのわが歌をはたなにとかせむ。人のわれを指ざして哂ふもげにうべなりと知りぬ。いとせめて百年ののちわがうた一つ世にあれよと願はば、さてもわが魯なることの證をさらにひとつ増すのみに過ぎざらむか。しばし千なるおもひにふけりてさて筆を擱く。大正十五年三月ついたちたまたま病める父をみとりせむとて歸れる故山の雨の夕べに
佐藤春夫しるす
北風よ起れ、南風よ來れ、わが園を吹いてその香氣を揚げよ、願くはわが愛する者のおのが園にいりきたりてその佳き果を食はんことを
雅歌第四章十六
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幼き歌
夕づつを見て
きよく
かがやかに
たかく
ただひとりに
なんぢ
星のごとく。
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犬吠岬旅情のうた
ここに來て
をみなにならひ
名も知らぬ草花をつむ。
みづからの影踏むわれは
仰がねば
燈臺の高きを知らず。
波のうね/\
ふる里のそれには如かず。
ただ思ふ
荒磯に生ひて松のいろ
錆びて黒きを。
わがこころ
錆びて黒きを。
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秋の夜
がらす障子を
ゆすぶりて
夜ふく風を
にくむなり。
かひなき人を
かた戀の
われを哂ふと
ふく風よ。
汝れが鋭き
あざけりは
君を落葉と
おもへとや。
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嫁ぎゆく人に