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TORENDIA

勲章

本文約6,800字 ・ 読了時間 約14分

あらすじ(AIが作成しました)

浅草公園六区のオペラ館楽屋に出入りする「わたくし」は、そこで丼飯を運ぶ高齢の男と交流を持つ。ある日、男は自分の勲章を披露し、踊子たちに囃し立てられて軍装姿で写真に収まる。その撮影の後、男は姿を見せなくなり、楽屋の人々は彼の存在すら忘れたかのように振る舞う。その後、彼が楽屋に現れることは二度となかった。本書は、混沌とした楽屋の光景と、そこに関わる人々の営みや哀愁を記した随筆である。

永井荷風

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寄席、芝居。何に限らず興行物の楽屋には舞台へ出る芸人や、舞台の裏で働いている人たちを目あてにしてそれよりもまた更に果敢い渡世をしているものが大勢出入をしている。

わたくしが日頃行き馴れた浅草公園六区の曲角に立っていた彼のオペラ館の楽屋で、名も知らなければ、何処から来るともわからない丼飯屋の爺さんが、その達者であった時の最後の面影を写真にうつしてやった事があった。

爺さんはその時、写真なんてエものは一度もとって見たことがねえんだヨと、大層よろこんで、日頃の無愛想には似ず、幾度となく有りがとうを繰返したのであったが、それがその人の一生涯の恐らく最終の感激であった。写真の焼付ができ上った時には、爺さんは人知れず何処かで死んでいたらしかった。楽屋の人たちはその事すら、わたくしに質問されて、初て気がついたらしく思われたくらいであった。

その日わたくしはどういう訳で、わざわざカメラを提げて公園のレヴュー小屋なんぞへ出掛けたのか。それはその頃三の輪辺の或寺に残っていた墓碣の中で、寺が引払いにならない中に、是非とも撮影して置きたいと思っていたものがあったためで。わたくしはその仕事をすましてからの帰途、ぶらぶら公園を通過ぎて、ふと池の縁に立っているオペラ館の楽屋口へ這入って見たのだ。

楽屋口へ這入ると「今日終演後ヴァラエテー第二景第三景練習にかかります。」だの、何だのと、さまざまな掲示の貼出してある板壁に沿い、すぐに塵芥だらけな危ッかしい階段が突立っている。それを上ると、狭い短い廊下の真中に、寒中でも破れた扉の開け放しになった踊子の大部屋。廊下の片隅にこの一座の中では一番名の高い芸人の部屋があり、他の片隅には流行唄をうたう声楽家の部屋。また一階上へあがると、男の芸人が大勢雑居している。ここではこれを青年部と称えていて、絶えずどたばた撲り合の喧嘩がある。しかしわたくしがこの楽屋をおとずれる時、入って休むところは座頭の部屋でもなく、声楽家の控所でもなく、わかい踊子がごろごろ寝そべっている大部屋に限られている。

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