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TORENDIA

『文学論』序

本文約8,200字 ・ 読了時間 約17分

あらすじ(AIが作成しました)

英国留学を命じられた著者が、語学や文学研究に苦悩する中で「文学とは何か」という根源的な問いに至る過程を綴る。ロンドンの孤燈の下、従来の学問的アプローチに限界を感じた著者は、文学の心理的・社会的必要性を解明しようと決意し、資料収集と分析に没頭する。不本意な状況下での研究や帰朝後の生活を経て、本書が執筆・出版されるに至った経緯や、神経衰弱や狂気と評されながらも執筆を続けた著者の心情を詳述する序文である。

夏目漱石

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余はこの書を公けにするにあたつて、この書が如何なる動機のもとに萌芽し、如何なる機縁のもとに講義となり、今また如何なる事故のために出版せらるるかを述ぶるの必要あるを信ず。

余が英国に留学を命ぜられたるは明治三十三年にて余が第五高等学校教授たるの時なり。当時余は特に洋行の希望を抱かず、かつ他に余よりも適当なる人あるべきを信じたれば、一応その旨を時の校長及び教頭に申し出でたり。校長及び教頭はいふ、他に適当の人あるや否やは足下の議論すべき所にあらず、本校はただ足下を文部省に推薦して、文部省はその推薦を容れて、足下を留学生に指定したるに過ぎず、足下にして異議あらば格別、さもなくば命の如くせらるるを穏当とすと。余は特に洋行の希望を抱かずといふまでにて、固より他に固辞すべき理由あるなきを以て、承諾の旨を答へて退けり。

余の命令せられたる研究の題目は英語にして英文学にあらず。余はこの点についてその範囲及び細目を知るの必要ありしを以て時の専門学務局長上田萬年氏を文部省に訪ふて委細を質したり。上田氏の答へには、別段窮屈なる束縛を置くの必要を認めず、ただ帰朝後高等学校もしくは大学にて教授すべき課目を専修せられたき希望なりとありたり。ここにおいて命令せられたる題目に英語とあるは、多少自家の意見にて変更し得るの余地ある事を認め得たり。かくして余は同年九月西征の途に上り、十一月目的地に着せり。

着後第一に定むべきは留学地なり。オクスフォード、ケムブリッヂは学問の府として遠くわが邦にも聞えたれば、そのいづれにか赴かんと心を煩はすうち、幸ひケムブリッヂにある知人の許に招かるるの機会を得たれば、観光かたがた彼地へ下る。

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