TRENDIA CLASSIC

おもちゃの蝙蝠

佐藤春夫

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あるところに一匹のコーモリがいた。それはオモチャで、ボール紙を切り抜いてその上に紫いろのアートペーパーがはりつけてあった。そして小さなゼンマイ仕掛でバタバタと飛ぶように出来ていた。

ところがある日、このコーモリがどうしたのか、それをこしらえた職人の店へ帰って来た。それは街に青い瓦斯燈がまたたき出した頃で、職人がその一日の仕事を終えてその木の馬や鳥や、それからそのコーモリの弟である沢山のコーモリなどをかたづけてから、煙草に火をつけて一ぷく吸っている時であった。その時、職人はむこうの角の方から地面とすれすれに鳥のようなものがヒラヒラとこちらへ飛んで来るのを見た。

しかし職人はすぐそれが自分のこしらえたコーモリであるということに気がついた。はて何かわすれた仕掛でもあったかな――あまりゼンマイが弱すぎていたかな――と思いながら見つめていると、コーモリは窓から職人の坐っている仕事台の上へコツンと降りた。

「どうしたんだい?」

職人はやや心配しながら、またいたわるようにこう問ねた。

するとコーモリの言うのには、

「天が高うて昇られない。」

「そうか。」

と言って職人はやはりゼンマイが弱かったと思いながら、コーモリを手に取り上げてしらべてみた。そしてすぐ新らしいゼンマイと取りかえて、それを巻くとコーモリを手に持ったままおさえていた羽根をはなした。パタパタパタ……と飛んで来た時の元気なさにくらべて、ヒコーキのように威勢よくそれは羽ばたきを初めた。

「オーライー!」

職人はこう叫んでコーモリを窓から外へ投げ出してやった。するとコーモリはそのままツーとまっすぐに、風車の仕掛で廻っている広告塔の方へ向って消えて行ってしまった。それを見送りながら職人はまたパイプをくわえて、元のように腰をおろした。

ところが次の日の夕方に、またそのコーモリが舞いもどって来て言った。

「天が高くて昇られない。」

職人はすぐそうかと気軽に言って、今一度、新らしい、そして丈夫なゼンマイと取りかえてはなした。今度は、コーモリは前と反対に西の方へ非常に速く飛んで行った。

ところがコーモリは、その次の日も同じようにもどって来て、同じことをくり反した。

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