本文へ移動
TORENDIA

炎暑

本文約1,100字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

札幌や東京、そしてシカゴでの記録的な炎暑の様子を綴る。アメリカでは冷房設備が十分に普及しておらず、多くの人が猛暑の中で生活を送る現状を描写する。特にシカゴの過酷な暑さを通じ、気候の厳しい地域においていかに近代文明が築き上げられたかを考察し、アメリカの気候に対する日本人の一般的な誤解を解く。

中谷宇吉郎

速度
🎧 炎暑 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 2

今年は世界的に非常に暑い年らしい。

例年の札幌の七月は、非常にいい時候であるが、今年は三十四度を越える日があって、避暑のつもりで來た内地の人たちを、大いに面喰らわせた。

東京の暑さももちろんであったが、シカゴへ來てみると、連日九十八度、百度(攝氏三十六・六度ないし三十八度)という日がつづくので、がっかりした。それでも八月半ば過ぎになってから、これでもまだ樂になったので、その前はひどかったようである。全然中だるみなく、百度上下の炎暑が、一ヵ月もつづいたので、皆すっかり參ったそうである。

市内に住んでいる人は、店はもちろんのこと、アパートでも、風通しは惡く、煉瓦も鋪道もやきつけられているので、東京や大阪の一番暑い日よりも、もっと惡い。しかし避暑に出かけられない人たちは、そういうところで、實によく働いている。日本から來ている學生たちも、たいてい夏は働いて、學資をつくっているが、並大抵の苦勞ではない。

日本では、アメリカが暑いときいても、どうせ冷房があって、家の中は涼しくなっているだろうと、簡單に考える人が多い。寒さの方は、たしかに暖房はどこの家でもよく設備されていて、あまり心配がない。しかし暑さの方は、アメリカでも、まだまだ對策は普及していない。ホテルでも冷房裝置のあるところの方がずっと少ない。部屋數三千、大きさでは世界一を誇るシカゴのコンラード・ヒルトン・ホテルでも、全館冷房はしていない。ごく上等な部屋だけ、部屋別に冷房裝置をつけている程度である。

從って住宅やアパートでは、冷房裝置のある方が珍しいのであって、恐らく九割以上のアメリカ人は、百度の炎熱の下にあえぎながら、働き且つ眠っているわけである。このあたりシカゴ郊外の高級住宅地で、中流以上の家庭が多いが、それでも住宅に冷房を施している家は、滅多にない。二三年前から、比較的簡單な個室用の冷房裝置が出來、盛んに廣告しているが、普及には、まだ程遠い。

中谷宇吉郎の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本