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TORENDIA

ばらの花五つ

本文約1,900字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

馬込の丘を散歩していた語り手は、六月の初め、畑の中に新しく作られたばら園で一人の紳士に出会う。五つのばらの花を買い求めたやり取りを通じて、語り手はその主人の人柄に触れる。後にその主人が過去の疑獄事件の余波で世を避けていた人物であることを知る。本書は、かつてのばら園の主人との邂逅を回想し、生活のために自らの力で働くことの尊さと、自立への決意を綴る随筆である。

片山廣子

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🎧 ばらの花五つ / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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むかし私はたいそう暇の多い人間だつた。どうしてそんなに暇があつたのかと考へてみると、しなければならないもろもろの仕事をしなかつたせゐだらうと思はれる。

さういふなまけものの人間が時たま忙しいことがあると、すぐ草臥れてしまつて、くたびれた時には散歩をした。

さて、ある時の散歩に私の家からあまり遠くない馬込の丘をのぼつたり降りたりして歩いた。馬込九十九谷とか言つて、丘と谷がいくつも連なり、どの丘もどの谷もみんながそれぞれ違つた光と色を見せて、散歩するにはたのしい道であつた。その日私が歩いてゐたのは、今は小学校が建つてゐるその辺の谷から広い丘にのぼる小みちを少し左にまがつて東南に向いた傾斜面であつた。その辺は殆どみんな畑で、ごくたまに小さい別荘風の小家が見えたが、私がちよつと足をとめたのは、そのひろい斜面を庭にして(もと畑であつた土地ゆゑ、まだ樹は一本もみえなかつたが)ばら園をはじめるらしく、ばらの大きな株がいくつか植ゑられ、小さい株はごしやごしやとその辺いつぱいに見えた。ちやうど六月の初めで、大きな株にはたくさん花が咲いて咲きすぎる位だつた。

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