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TORENDIA

釣

本文約1,100字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

北陸の湖畔で育った著者が、釣りという娯楽の魅力を綴る。幼少期の思い出に触れつつ、アメリカ滞在中に訪れた森林に囲まれた貯水池での鯉釣り体験を描く。現地での釣りの様子や、風のない凪いだ湖面で夕暮れ時に魚が釣れ出す情景を紹介する。また、釣った後の魚を川へ放す現地の習慣や、釣れた魚の味や調理の難しさなど、釣りを通じて感じた経験を軽妙な筆致で記録する随筆である。

中谷宇吉郎

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🎧 釣 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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この近年、日本中到るところで、釣が大流行のようである、實際のところ、釣くらい面白いものは、外に一寸あるまい。

この頃、無暗と忙しくて、ゆるゆると魚釣りに時を忘れるというような機會には、滅多に惠まれない。それだけに、子供の頃、北陸の湖の畔に育った私などには、昔の思い出がなつかしまれる。五寸もある鮒を釣り上げて、それが藻にからんだ時の、あの緊張感のようなものは、大人になってからは、もう味わえない。

アメリカにいた頃、住んでいた町のすぐ近くに川があった。其處に簡單なダムが建設され、その上流側に、細長い貯水池が出來ていた。この貯水池は、川なりにゆるやかに曲っていて、兩岸には、森林が水面におおいかぶさるように繁っていた。こういうところには、たいてい保存林があって、野生の林をそのままに保存するようになっている。

夏の間、よくこの貯水池へ鯉釣りに出かけた。研究所の方は、夏時間の四時半、すなわち三時半にはもう引けるので、それから暗くなるまでには、少くも五時間はある。自動車なら十分とかからないところなので、よく夕食をもってピクニックがてらに、この貯水池へ出かけた。

緯度が高いので、たそがれは、何時までもつづく。風は滅多にないので、この人造湖の水面は、鏡のように凪いでいる。保存林の中、川べりに沿って、ところどころ小さい開けた土地があって、其處が釣場である。

川の向う側は、鬱蒼とした森で、その影が黒く水面にうつっている。陽が落ちて、地平線の近くが橙色に染まり、それが雲一つない青磁色の空に溶け込む頃になると、急に魚が釣れ出して來る。釣れるのは、主として鯉であって、普通は七八寸くらい、まれに尺を越すのがかかる。それと、あとよく釣れるものは鯰である。アメリカの鯉や鯰は、大分のんきに出來ているらしく、われわれのようなずぶの素人にも、一夕に五六尾は釣れる。

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