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著者: 湊 ひびき
はじめに ― 一枚の名前の並び
歌を聴くとき、私たちは歌い手の声を追いかけます。けれど、その歌がどんな人たちの手でできたのかに目を向けると、別の景色が見えてきます。
日本レコード大賞は、一九五九年(昭和三十四年)に始まった賞です。公式サイトの歴代大賞一覧には、第一回から第六十七回まで、大賞曲ごとに、歌手の名前と、作曲者、作詩者、編曲者が並んでいます。二〇二五年の第六十七回は、Mrs. GREEN APPLEの「ダーリン」が大賞に選ばれました。
この本では、年ごとの表をそのまま読むのではなく、その表に並んだ「作る人」の名前に注目します。作曲をした人、詞を書いた人、編曲をした人が、時代ごとにどう入れ替わってきたのか。歌い手と作り手が同じ人になっていく流れも、少しずつ見えてきます。
ここで扱うのは、公式に発表された受賞の事実と、クレジット(作曲・作詞・編曲の表記)です。歌手の私生活や、授賞式の裏話には触れません。曲の評判や好みは、筆者の意見として分けて書きます。
1. はじまり ― 一九五九年、水原弘と「黒い花びら」
第一回の大賞曲は、水原弘の「黒い花びら」です。公式の一覧では、作曲者は中村八大、作詩者は永六輔、編曲者は中村八大と記されています。
ひとりの人が、作曲と編曲を両方手がけている。いまの音楽づくりでも珍しくないやり方ですが、賞の表に、作る人の名前を歌い手と並べて載せていること自体が、この賞の性格を考えるうえで大事な点だと思います。
歌う人は水原弘、作る人は中村八大と永六輔。歌手の名前が大きく見える賞ですが、表を見ると、作り手の名前も、同じ大きさで並んでいることがわかります。
2. 一九六〇年代 ― 作る人の名前が並ぶ
一九六〇年代の大賞曲を、作る人の名前で見てみます。
第二回の「誰より君を愛す」は、作曲が吉田正、作詩が川内康範、編曲が和田弘でした。歌い手は松尾和子と、和田弘とマヒナスターズです。第四回の「いつでも夢を」も、作曲は吉田正で、作詩は佐伯孝夫、編曲も吉田正です。