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TORENDIA

冬

本文約5,700字 ・ 読了時間 約12分

あらすじ(AIが作成しました)

重い外套を纏った「僕」は、収監された従兄を慰めるために市ヶ谷の刑務所へ向かう。真冬の控室で長時間待たされ、看守の冷淡な態度に苛立ちを感じながら、ようやく面会を果たした。帰宅後、従兄の弟や従姉と今後の対策を話し合う中、外からは従兄を慕う人々による万歳の声が響き渡る。本作は、刑務所での面会を通じ、周囲の思惑や理不尽な事態に翻弄される人間模様と、その後に訪れた喪失感を静かに描く。

芥川龍之介

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🎧 冬 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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僕は重い外套にアストラカンの帽をかぶり、市ヶ谷の刑務所へ歩いて行った。僕の従兄は四五日前にそこの刑務所にはいっていた。僕は従兄を慰める親戚総代にほかならなかった。が、僕の気もちの中には刑務所に対する好奇心もまじっていることは確かだった。

二月に近い往来は売出しの旗などの残っていたものの、どこの町全体も冬枯れていた。僕は坂を登りながら、僕自身も肉体的にしみじみ疲れていることを感じた。僕の叔父は去年の十一月に喉頭癌のために故人になっていた。それから僕の遠縁の少年はこの正月に家出していた。それから――しかし従兄の収監は僕には何よりも打撃だった。僕は従兄の弟と一しょに最も僕には縁の遠い交渉を重ねなければならなかった。のみならずそれ等の事件にからまる親戚同志の感情上の問題は東京に生まれた人々以外に通じ悪いこだわりを生じ勝ちだった。僕は従兄と面会した上、ともかくどこかに一週間でも静養したいと思わずにはいられなかった。………

市ヶ谷の刑務所は草の枯れた、高い土手をめぐらしていた。のみならずどこか中世紀じみた門には太い木の格子戸の向うに、霜に焦げた檜などのある、砂利を敷いた庭を透かしていた。僕はこの門の前に立ち、長い半白の髭を垂らした、好人物らしい看守に名刺を渡した。それから余り門と離れていない、庇に厚い苔の乾いた面会人控室へつれて行って貰った。そこにはもう僕のほかにも薄縁りを張った腰かけの上に何人も腰をおろしていた。しかし一番目立ったのは黒縮緬の羽織をひっかけ、何か雑誌を読んでいる三十四五の女だった。

妙に無愛想な一人の看守は時々こう云う控室へ来、少しも抑揚のない声にちょうど面会の順に当った人々の番号を呼び上げて行った。が、僕はいつまで待っても、容易に番号を呼ばれなかった。いつまで待っても――僕の刑務所の門をくぐったのはかれこれ十時になりかかっていた。けれども僕の腕時計はもう一時十分前だった。

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