本文へ移動
TORENDIA

野呂松人形

本文約3,100字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

芥川龍之介の招待を受けた語り手は、日暮里の別荘で行われる「野呂松人形」の催しへ向かう。そこは紋付袴姿の客が集う異空間であり、語り手は大学の制服で参列したことに疎外感を覚える。やがて舞台では、簡素な造りの人形が、大名と与六のやり取りを悠長に繰り広げる。語り手はその古風な芸能を眺めつつ、芸術作品が時代や場所の制約を超越できるのかという根源的な問いを自らの小説執筆と重ね合わせ、思索を深めていく。

芥川龍之介

速度
🎧 野呂松人形 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 4

野呂松人形を使うから、見に来ないかと云う招待が突然来た。招待してくれたのは、知らない人である。が、文面で、その人が、僕の友人の知人だと云う事がわかった。「K氏も御出の事と存じ候えば」とか何とか、書いてある。Kが、僕の友人である事は云うまでもない。――僕は、ともかくも、招待に応ずる事にした。

野呂松人形と云うものが、どんなものかと云う事は、その日になって、Kの説明を聞くまでは、僕もよく知らなかった。その後、世事談を見ると、のろまは「江戸和泉太夫、芝居に野呂松勘兵衛と云うもの、頭ひらたく色青黒きいやしげなる人形を使う。これをのろま人形と云う。野呂松の略語なり」とある。昔は蔵前の札差とか諸大名の御金御用とかあるいはまたは長袖とかが、楽しみに使ったものだそうだが、今では、これを使う人も数えるほどしかないらしい。

当日、僕は車で、その催しがある日暮里のある人の別荘へ行った。二月の末のある曇った日の夕方である。日の暮には、まだ間があるので、光とも影ともつかない明るさが、往来に漂っている。木の芽を誘うには早すぎるが、空気は、湿気を含んで、どことなく暖い。二三ヶ所で問うて、漸く、見つけた家は、人通りの少ない横町にあった。が、想像したほど、閑静な住居でもないらしい。昔通りのくぐり門をはいって、幅の狭い御影石の石だたみを、玄関の前へ来ると、ここには、式台の柱に、銅鑼が一つ下っている。そばに、手ごろな朱塗の棒まで添えてあるから、これで叩くのかなと思っていると、まだ、それを手にしない中に、玄関の障子のかげにいた人が、「どうぞこちらへ」と声をかけた。

芥川龍之介の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本