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TORENDIA

運

本文約6,900字 ・ 読了時間 約14分

あらすじ(AIが作成しました)

清水の観音に日参する青侍は、仕事場の陶器師から、ある娘の数奇な体験談を聞く。貧しい娘は観音へ安楽な暮らしを願うと、不思議な夢のお告げに従った夜、道で見知らぬ男に塔へと連れ込まれる。男は盗賊であったが、娘は宝を残して去った男と結ばれ、後に捕縛される男の姿を見届ける。結果として富を得た娘の運命をめぐり、青侍と陶器師は信心と幸不幸の理窟を語り合う。

芥川龍之介

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目のあらい簾が、入口にぶらさげてあるので、往来の容子は仕事場にいても、よく見えた。清水へ通う往来は、さっきから、人通りが絶えない。金鼓をかけた法師が通る。壺装束をした女が通る。その後からは、めずらしく、黄牛に曳かせた網代車が通った。それが皆、疎な蒲の簾の目を、右からも左からも、来たかと思うと、通りぬけてしまう。その中で変らないのは、午後の日が暖かに春を炙っている、狭い往来の土の色ばかりである。

その人の往来を、仕事場の中から、何と云う事もなく眺めていた、一人の青侍が、この時、ふと思いついたように、主の陶器師へ声をかけた。

「不相変、観音様へ参詣する人が多いようだね。」

「左様でございます。」

陶器師は、仕事に気をとられていたせいか、少し迷惑そうに、こう答えた。が、これは眼の小さい、鼻の上を向いた、どこかひょうきんな所のある老人で、顔つきにも容子にも、悪気らしいものは、微塵もない。着ているのは、麻の帷子であろう。それに萎えた揉烏帽子をかけたのが、この頃評判の高い鳥羽僧正の絵巻の中の人物を見るようである。

「私も一つ、日参でもして見ようか。こう、うだつが上らなくちゃ、やりきれない。」

「御冗談で。」

「なに、これで善い運が授かるとなれば、私だって、信心をするよ。日参をしたって、参籠をしたって、そうとすれば、安いものだからね。つまり、神仏を相手に、一商売をするようなものさ。」

青侍は、年相応な上調子なもの言いをして、下唇を舐めながら、きょろきょろ、仕事場の中を見廻した。――竹藪を後にして建てた、藁葺きのあばら家だから、中は鼻がつかえるほど狭い。が、簾の外の往来が、目まぐるしく動くのに引換えて、ここでは、甕でも瓶子でも、皆赭ちゃけた土器の肌をのどかな春風に吹かせながら、百年も昔からそうしていたように、ひっそりかんと静まっている。どうやらこの家の棟ばかりは、燕さえも巣を食わないらしい。……

翁が返事をしないので、青侍はまた語を継いだ。

「お爺さんなんぞも、この年までには、随分いろんな事を見たり聞いたりしたろうね。どうだい。観音様は、ほんとうに運を授けて下さるものかね。」

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