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TORENDIA

八十八夜

本文約13,600字 ・ 読了時間 約28分

あらすじ(AIが作成しました)

作家である笠井一は、貧困と創作の苦悩から精神的に追い詰められ、閉塞感の中で「一寸先は闇」の生活を送っていた。何かに突き動かされるように、三十五歳となった笠井は、日常を断ち切るために無計画な旅に出る。信州の下諏訪を目指し、かつて知った宿の女中との再会を期して行動するが、旅先での出来事を通して自身の醜態をさらす経験をする。ロマンチシズムへの憧れと現実の乖離に葛藤しながら、笠井は再び創作へ向き合おうと決意し帰路につく。

太宰治

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諦めよ、わが心、獣の眠りを眠れかし。(C・B)

笠井一さんは、作家である。ひどく貧乏である。このごろ、ずいぶん努力して通俗小説を書いている。けれども、ちっとも、ゆたかにならない。くるしい。もがきあがいて、そのうちに、呆けてしまった。いまは、何も、わからない。いや、笠井さんの場合、何もわからないと、そう言ってしまっても、ウソなのである。ひとつ、わかっている。一寸さきは闇だということだけが、わかっている。あとは、もう、何もわからない。ふっと気がついたら、そのような五里霧中の、山なのか、野原なのか、街頭なのか、それさえ何もわからない、ただ身のまわりに不愉快な殺気だけがひしひしと感じられ、とにかく、これは進まなければならぬ。一寸さきだけは、わかっている。油断なく、そろっと進む、けれども何もわからない。負けずに、つっぱって、また一寸そろっと進む。何もわからない。恐怖を追い払い追い払い、無理に、荒んだ身振りで、また一寸、ここは、いったいどこだろう、なんの物音もない。そのような、無限に静寂な、真暗闇に、笠井さんは、いた。

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